卵巣明細胞癌(CCOC)は化学療法抵抗性症例が多く治療に難渋するが、その約50%が持つARID1A変異という特徴を標的とした新規治療の開発を目指した。先行実験にて、CCOC細胞株にはATR阻害剤とBRD4阻害剤がそれぞれ単剤で強い抗腫瘍効果を示した。これをふまえ、本研究ではARID1A変異癌に対するATR阻害かつBRD4阻害併用療法(ATRi+BRD4i)の確立を目指した。 卵巣癌細胞株OVKATEのARID1AノックダウンにてATRi+BRD4iの感受性の増加を認めた。一方、ARID1A変異のある子宮内膜癌細胞株HEC1AにARID1A強制発現をもたらすとATRi+BRD4iの感受性は低下を示した。ARID1A変異型卵巣癌細胞株(TOV21G、OVMANA)とARID1A野生型卵巣癌細胞株(OVKATE、ES-2)を用いてATRi+BRD4iがアポトーシス、DNA damageへ与える影響を調べたところ、ARID1A変異型の方がより高頻度のアポトーシスマーカー陽性細胞とDNA damageマーカー陽性細胞を認めた。以上よりIn vitroにおいてARID1A変異がATRi+BRD4iの感受性のバイオマーカーとなりうると考えられた。 我々はCCOC患者由来腫瘍卵巣同所移植マウスPDXモデルを確立した。ARID1A変異型PDXであるWO-38とWO-24ではATRi+BRD4iはそれぞれの単剤療法やカルボプラチン単剤に比して有意な抗腫瘍効果とマウス生存率改善を認めた。一方、ARID1A野生型PDXのWO-30ではATRi+BRD4iはそれぞれの単剤療法と抗腫瘍効果は有意差がなかった。 以上より、ATRi+BRD4i療法がCCOCに対して新規の分子標的治療となることを見出した。本研究成果をもとに現在臨床応用に向けて米国研究グループとともに臨床試験を計画している。
|