研究課題/領域番号 |
20K18258
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
井内 寛之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (90645285)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 連鎖球菌 / ホスホリルコリン / 血小板活性化因子受容体 |
研究実績の概要 |
本研究では上気道感染症の主たる起炎菌である肺炎球菌、無莢膜インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌の上気道粘膜上皮細胞への接着および侵入におけるホスホリルコリン(PC)の役割を明らかにすることを目的としている。肺炎球菌やインフルエンザ菌に対してワクチン接種が義務化され侵襲性の感染症が減少してきている。しかしながら、ワクチン株以外の感染は減少せず、耐性菌の問題や無莢膜インフルエンザ菌についてはワクチンの効果はない。また、連鎖球菌に対するワクチンの開発はなされていない。そこで、これまで広域スペクトラム粘膜ワクチンとして研究が進めてきたPCの直接作用による細菌感染防御の可能性を検討し、新たな創薬の開発を目指している。PC はすべてのグラム陽性および陰性菌の細胞壁の構成成分であり、これを経粘膜投与することで粘膜免疫応答が誘導され、ワクチンとしての応用に期待が寄せられている。また、PCは血小板活性化因子受容体(PAF-R)を介して細菌の上皮への接着や細胞内侵入に関し、PCの発現はSpnとNTHiの病原性と相関することが知られている。しかしながら、連鎖球菌のPC発現は未だ報告がない。そこでこれまで報告があるSpnとNTHiとともに連鎖球菌についてPCの関与を証明することができれば、上気道感染症に対するワクチン開発に大いなる一歩となることが予想される。本年度はこれまでPCに関する連鎖球菌の報告がないことから、まず連鎖球菌のPC発現を確認し、PCとPAF-Rの関係について実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在連鎖球菌の実験を進めている。in vitroの実験は終了した。 まず、連鎖球菌8菌株のPC発現を確認した。PCの発現は細菌株で異なることを確認した。また、PC発現と細菌接着数は正の相関関係を示すことがわかった。細菌のPCを阻害するためTEPC-15(PC特異的IgA抗体)で処理した。すると、PC発現とTEPC-15で処理した時の細胞接着数は負の相関関係を示すことがわかった。また、細胞のPAF-Rを阻害するためABT-491(抗PAF-R抗体)で処理した。PC発現とABT-491で処理した時の細胞接着数は負の相関関係があることがわかった。 また、連鎖球菌は細胞内侵入し、反復性感染をきたすため、細胞内に侵入する連鎖球菌とPC発現の関係についても同様に検討した。その結果、TEPC-15とABT-491で処理することでPC発現と細菌接着数は負の相関関係があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はin vitroの実験は終了したが、ワクチンの開発に向けてin vivoの実験が必要である。BALB/c マウスを使用して検討する予定である。細菌のPCを阻害するためBALB/c マウスにTEPC-15で処理した細菌を経鼻投与しnasal passageを採取し細菌数を測定する。次にBALB/c マウスにABT-491を経鼻投与し細胞のPAF-Rを阻害しnasal passageを採取し細菌数を測定する。in vitro と同様にPC発現と接着阻害効果を検討する。この検討により、in vitro と in vivoの双方からのPCによる直接的な細菌予防効果の有効性が確認できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は連鎖球菌のin vitroの実験を進めた。しかしながら、ワクチンへの応用を鑑みるとin vivoの実験が必須である。本年度はin vivoでBALB/c マウスを使用して実験を行う予定であったが、実験をすることができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。次年度に繰り越した研究費を実験動物、消耗品購入費に充て、連鎖球菌とBALB/c マウスを用いてin vivoの実験を進めていく予定である。 また、抗菌薬への耐性が数多く報告されている黄色ブドウ球菌に対しても同様の実験を進めていく。黄色ブドウ球菌でのPCの有用性を示すことができれば、上気道感染症予防に対して大きな足掛かりになることが期待される。
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