研究実績の概要 |
音刺激の減少による伝音難聴では、内耳に伝達される音響刺激が減少し、内耳シナプス障害をきたしていることを確認した。さらに、蝸牛神経核のシナプスマーカーであるVGLUT-1にの発現について検討したところ、VGLUT-1の発現減少を認めた。一方、蝸牛神経核において代償性のVGLUT-2の発現増加を認めた。この代償性VGLUT-2増加は、聴覚系以外の情報入力増加による神経活動の亢進を意味しており、難聴に伴う耳鳴発症の一因と考えることもできる。 また、認知機能にする海馬では、神経新生が生涯にわたり観察されることが報告されており、この神経新生能が認知機能に深く関与することが既に報告されている。そこで、伝音難聴における海馬神経新生能について、Doublecortine,Ki-67,EdUを用いて定量評価を行ったところ、伝音難聴では神経新生能が低下していた。興味深いことに、一側難聴と両側難聴で海馬神経新生能に差は見られなかった。神経新生能に影響を与える因子として、中枢神経系におけるミクログリアの発現とストレス反応の関与が報告されている。そこで、まず伝音難聴モデルにおける海馬のミクログリア発現を定量評価したところ、伝音難聴でミクログリアの発現増加を確認した。さらに、難聴に伴うストレス反応の評価として、血中コルチゾールを測定したところ、コルチゾール上昇を認めた。また、海馬の神経シナプスの評価として、Synaptophysin,PSDの定量を行ったところ、有意差は認めなかったがシナプスマーカーの発現減少を認めた。 以上の結果から、難聴に伴う内耳・中枢への音刺激の減少では、内耳と海馬における炎症細胞浸潤、ストレス反応によりシナプス障害をきたし、さらに海馬の神経新生能が低下することから、認知機能低下を引き起こすことが示唆された。
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