聴覚機能は加齢に伴って低下するため、超高齢化社会を迎えた本邦では、難聴が大きな社会問題となっているが、難聴が中枢神経に及ぼす影響は不明である。 本研究ではまず、①伝音難聴による中枢への入力低下が海馬の神経新生に及ぼす影響について検討した。マウス(C57BL/6、2ヶ月齢)の耳穴に印象材シリコン樹脂を2ヶ月間充填し、伝音難聴モデルを作成した。海馬の神経新生能の評価には、Doublecortin(DCN)、Ki-67の発現陽性細胞数の計測を用いた。伝音難聴マウスでは海馬におけるDCNおよびKi-67の発現が低下しており、海馬の神経新生能が低下することが示唆された。 続いて、②内耳障害が蝸牛神経核に及ぼす影響について検討した。内耳障害により蝸牛神経核の興奮性、抑制性シナプスマーカーの発現はいずれも低下した。しかし、内耳障害の程度と中枢の変化は相関しないことが明らかとなった。 海馬は認知機能、記憶、学習機能と関連があることから、伝音難聴による中枢への情報入力低下により認知症などを発症する可能性が示唆され、日常の臨床においても中枢機能への影響を考慮しながら、難聴に対する治療方針を決定することが重要であると考えられた。
|