研究実績の概要 |
「認知症」の最大のリスクファクターである「難聴」を多角的・経時的に解析するために、申請者は霊長類難聴モデルを用いた行動解析に取り組んできた。本研究では、難聴に起因する認知機能・バイオマーカー変化をフェノタイプと見立て、その原因となる脳機能・構造変化を超高磁場MRIにより明らかにすることを目的に研究を進めてきた。小型霊長類コモンマーモセットに強大音を負荷することにより、恒久的聴覚閾値上昇を認める音響外傷モデルを作製した。同モデルを用いて、音響負荷前、音響不可後1, 3, 6, 12ヶ月後における行動学的評価およびMRI撮影を行った。 行動学的評価としては視覚関連行動としてBobbing(首を振り周囲を確認する動作)、Grabbing(ケージを掴み周囲環境を確認しようとする動作)において難聴前後の有意な変化を認めた。これら行動学的解析をさらに認知機能評価に反映させるために、給餌による報酬系を用いたコモンマーモセット用タッチパネルによる認知機能審査システムを構築した。 MRIによる中枢解析としては、以下の項目を測定した。各脳領域における機能的接続性の評価のための安静時脳活動MRI、脳体積の減少や増加といった形態特徴を同定するためのVBM(Voxel-based morphometry)、各脳領域の器質的接続性を評価するためのDTI(Diffusion Tensor Imaging)。現在までに得られた結果として、音響負荷後の個体において、視覚野にvolume変化をともなう脳活動変化が強く認められクロスモーダル変化が起きていることを強く示唆する結果が得られた。 以上のように、行動学的解析では視覚関連行動の変化が、MRI解析ではそれに対応するように視覚関連領野の構造的・機能的変化が捉えられた。MRIの結果では、腹側後帯状皮質にも構造的変化を認めており、大脳辺縁系との関連をさらに解析を進める予定である。
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