HPV陽性頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)において挿入HPV(integrated HPV)と相互作用する宿主ゲノム領域(HPV-interacting region : HPVIR)の網羅的探索とエピゲノム情報、遺伝子発現情報の統合解析を進めた。 WNT経路の発現亢進を認めるHPV陽性HNSCC細胞株UPCI-SCC-090について、4C-seq解析すると4つの染色体でHPVIR(0.5-40 Mb)が同定された。Hi-C解析を行いA/Bコンパートメントを算出すると、HPV挿入部位はAコンパートメント優位であった。Aコンパートメント内のHPVIRに存在する遺伝子は発現亢進しており、非増幅領域の遺伝子536個にWNT経路関連遺伝子の有意な濃縮を認めた(P=1e-25)。ChIP-seq解析の結果、HPVIRでは活性エンハンサーの数が、正常細胞やHPV陰性HNSCC細胞と比べて有意に増加しており、活性エンハンサーの集簇であるスーパーエンハンサー(SE)に着目した。HPVIR内のSE標的遺伝子を207個を抽出するとWNT経路関連遺伝子の有意な濃縮を認めた(P=1e-9)。最も発現亢進するITPR3に着目すると、ITPR3遺伝子の75-79kb下流にあるエンハンサー領域はUPCI-SCC-090細胞で異常活性化してSEを形成しており、ITPR3遺伝子プロモーターと近接関係を形成することをHi-Cにて同定した。siRNAによるノックダウンでの細胞増殖抑制、エンハンサー削除実験によるITPR3発現低下と細胞増殖抑制を認めた。 このようなHPVIR内の非増幅領域におけるエピゲノム活性化は、他のHPV感染HNSCC細胞株UM-SCC-47、UM-SCC-104においても認め、広くHNSCC発がんの一因であることが示唆された。 これらの成果はInt. J. Cancer誌に掲載予定である。
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