研究課題/領域番号 |
20K18279
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北田 有史 京都大学, 医学研究科, 医員 (50869584)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鼻・副鼻腔 / 移植治療 / ヒトiPS細胞 / 線毛上皮細胞 / コラーゲンビトリゲル / X-SCIDラット |
研究実績の概要 |
鼻腔、副鼻腔に存在する気道上皮細胞は呼気中に含まれる微粒子を外部へ排出する役目を担っているが、線毛機能不全症候群や嚢胞性線維症などの遺伝子疾患ではこの機能が阻害され、根本的治療法がなく生命維持にかかわる。そこで本研究では、これらの遺伝子疾患に対する移植治療のための基盤的技術開発として、ヒトiPS細胞由来気道上皮細胞シートを免疫不全ラットの鼻腔、副鼻腔へ移植し、高効率に生着させることをめざす。 2020年度は移植に関する検討として移植部となる鼻腔粘膜を掻把する面積、前鼻腔閉鎖・非閉鎖の検討、足場となるコラーゲンビトリゲルの厚みや素材、性状の検討、移植に用いるヒトiPS細胞株の選定、レシピエントラットの系統(ヌードラットもしくはX-SCIDラット)についての検討を行なった。移植に用いるヒトiPS細胞から気道線毛上皮細胞への分化誘導は、京大呼吸器内科、後藤らのグループが確立した誘導法(Goto et al., 2014, Konishi et al., 2016)を用い、コラーゲンビトリゲル膜上で行った。誘導したヒトiPS細胞由来気道上皮細胞を各条件下で少数の免疫不全ラットに移植する予備的移植実験を行った結果、移植細胞が生着する条件がほぼ確立された。そこで実験数を増やし、複数のレシピエントラットの鼻腔内に移植細胞の生着を確認した。さらにこれらのヒトiPS細胞由来生着細胞に気道上皮を構成する細胞種が含まれていることを確認した。現在、これらの結果を論文にまとめ投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は鼻腔呼吸上皮組織剥離モデルの確立と移植条件の検討を行い、移植細胞が生着する条件を見出した。移植部位として、免疫不全ラット鼻腔呼吸上皮を鋭匙で掻把する面積を検討したところ、3x4 mmの掻把で自然治癒が起こりにくかった。移植に用いるヒトiPS細胞由来気道上皮細胞は山中伸弥先生樹立株を理化学研究所から供与していただき検討した。201B7由来のものと253G1由来のものを少数のラットに移植したところ253G1で生着が見られたため、253G1株を移植用に用いる株として選出した。これらの細胞はアテロコラーゲン含有量の異なるコラーゲンビトリゲル膜上で誘導され、移植に用いられた。移植細胞の生着が見られたコラーゲンビトリゲル膜を移植用足場として選定した。また、前鼻腔閉鎖・非閉鎖で各2匹ずつ予備検討として移植を行ったところ、解放したままでも鼻腔内移植部位に移植細胞の生着が見られたため閉鎖せずに移植することとした。移植に用いる免疫不全ラットについてはヌードラットとNBRP-Rat 分担機関、東京大学医科学研究所 実験動物研究施設、真下知二先生より御供与頂いたXSCIDラットで少数の比較を行ったところヌードラットで生着が見られた。以上の予備検討の結果、移植細胞が生着する条件がほぼ確立された。 本実験として上記の条件で、ヒトiPS細胞由来気道上皮細胞をヌードラット6匹へ移植し、一週間後に組織を回収し、凍結切片の蛍光免疫染色法にて検討を行った。複数匹のラットサンプルで抗ヒト核抗体染色陽性細胞が確認され、これらの細胞内に気道上皮細胞を構成する細胞種のマーカー陽性のものが見られた。これらの結果はヒトiPS細胞由来気道上皮細胞が免疫不全ラットの鼻腔内に生着したことを示している。この結果を論文にまとめ、現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
投稿中論文のリバイス対策として、指摘を受けそうな部分を補完する実験を行う。また今回の移植では生着細胞は鼻腔粘膜の管腔面には存在せず、鼻腔内で嚢胞を形成する形で生着していたため改善の必要がある。嚢胞形成の原因の一つとして、ヌードラットの免疫抑制力が弱く線維化が覆っている可能性が考えられる。予備検討で用いたXSCIDラットはごく少数であったため偶然生着が見られなかった可能性もあり、今後実験数を増やして検討を行う。またもう一つの原因として、今回用いたコラーゲンビトリゲルの性状が挙げられる。移植のハンドリングの都合上、厚めで硬さの有るdisk状のものを用いたため移植部周辺の上皮細胞層から飛び出た状態になってしまっていた。今後厚みと移植に必要な強度の検討に加え、細胞シート状での移植法の検討など、移植部周辺の上皮細胞と滑らかに連続した表層部を再生させるための検討を重ねる。以上の検討の結果、移植部上皮細胞に占める抗ヒト核抗体陽性細胞の割合が30%以上の高効率になる条件が決まれば、蛍光タンパク質を発現するヒトiPS細胞株を用いた移植を行い生着細胞につきハイスピードカメラによる繊毛運動の評価や電子顕微鏡での微細構造の検討なども行う。さらに、以上の検討結果を生かし、副鼻腔へのヒトiPS細胞由来気道上皮細胞移植の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症の影響で購入予定試薬の納品が大幅に遅れるとの連絡があったため、急遽発注を取り下げ、次年度の発注としたため次年度使用額が生じた。2021年4月以降に予定していた試薬を発注購入し、研究を進める予定である。
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