鼻腔、副鼻腔に存在する気道上皮細胞は呼気中に含まれる微粒子を外部へ排出する役目を担っている。線毛機能不全症候群や嚢胞性線維症などの遺伝性疾患ではこの線毛運動機能が阻害されるが、根本的治療法がなく生命維持にかかわる。そこで本研究では、これらの遺伝子疾患に対する移植治療のための基盤的技術開発として、ヒトiPS細胞由来気道上皮細胞シートを免疫不全ラットの鼻腔、副鼻腔へ移植し、高効率に生着させることを目的としている。 2020年度に生体分解性膜であるコラーゲンビトリゲル膜上でヒトiPS細胞由来気道上皮細胞の分化誘導を行い繊毛上皮細胞を含む気道上皮への分化誘導が確認された。誘導したヒトiPS細胞由来気道上皮細胞を移植に関する検討として移植部となる鼻腔粘膜を掻把する面積、前鼻腔閉鎖・非閉鎖の検討、足場となるコラーゲンビトリゲルの厚みや素材、性状の検討、移植に用いるヒトiPS細胞株の選定、レシピエントラットの系統(ヌードラットもしくはX-SCIDラット)についての検討を行なった。移植細胞が生着する条件がほぼ確立され、2021年度の移植実験で、複数のレシピエントラットの鼻腔内に移植細胞の生着を確認し、これらの結果を論文にまとめ投稿し、受理された。 しかしながらこの段階で、移植細胞由来上皮細胞は鼻腔粘膜管腔面に存在しておらず、機能回復につながらないと考えられた。そこで2022年度は、移植細胞による機能回復が可能な鼻腔粘膜管腔面への生着を目指し、管腔面への生着がみられている気管での移植法を参考とし、移植法の再検討を行った。
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