カプサイシン軟膏による外耳道刺激が嚥下障害患者の咳反射を亢進し肺炎リスクを低下させるメカニズムを、患者の咳反射、喀痰中のサブスタンスP(SP)と、その受容体であるニューロキニン1(NK1)の変化から解明する。さらにその成果をもとに、咳反射亢進効果の持続、反復刺激の適切な頻度について考察し、カプサイシン軟膏による外耳道刺激を臨床へ応用し安全で新しい誤嚥性肺炎の予防法を開発するのが本研究の目的である。 令和5年度の研究実施計画では、脳血管障害やパーキンソン病や誤嚥性肺炎の既往があり入院している高齢嚥下障害患者を対象に2週間のカプサイシン軟膏による外耳道刺激の反復を行い、患者の咳反射、熱発回数、経口摂取状況について評価した。患者の声門閉鎖・咳反射は有意に改善し、刺激期間中、患者の熱発回数は刺激前より有意に減少し経口摂取を継続することが出来た。また、カプサイシン軟膏による外耳道反復刺激を行わなかった患者との比較では、カプサイシン軟膏による外耳道反復刺激を行った患者は経口摂取が可能になった割合が高い傾向にあり、嚥下訓練開始から経口摂取までの期間が有意に短い結果であった。これらから、カプサイシン軟膏による1日1回、2週間の外耳道反復刺激は、高齢嚥下障害患者の咳反射亢進を持続し誤嚥リスクを低下させることで、下気道炎を予防し嚥下訓練の促進や経口摂取に寄与した可能性が考えられた。 カプサイシン軟膏による外耳道刺激は喀痰中のSPを増加させることがわかっている。外耳道刺激の反復が嚥下障害患者の咳反射を亢進し持続させることから、咽頭喉頭で増加したSPがその受容体であるNK1へ結合しup-regulationさせることが予測されたが、コロナ禍で喀痰採取のための超音波ネブライザーの使用が困難であったため、SPとNK1の関連性を示すことはできなかった。
|