研究実績の概要 |
遺伝性難聴は聴覚と言語発育の著しい障害を引き起こす極めて高度なQOLの低下をもたらす。言語習得後の遅発性難聴の原因として、アミノ配糖体に対する易受傷性を示す家系が報告され、ミトコンドリア遺伝子1555A>G変異が同定された。ミトコンドリアは大部分の細胞に存在する細胞小器官であり、核ゲノムとは異なる独自のゲノムを有している。アミノ配糖体による難聴の機序として、アミノ配糖体抗菌薬により主として蝸牛コルチ器が障害を受けることが報告されている。またこの変異によって、アミノ配糖体存在下でミトコンドリアにおける不良タンパク質が増加することも判明している。 順天堂医院での遺伝子検査により診断されたミトコンドリア遺伝子1555A>G変異難聴患者より臨床データを分類し、本学倫理委員会の承認およびインフォームド・コンセントの後、患者血液を収集した。 血液細胞へエピソーマルプラスミドでの遺伝子導入(OCT3/4,SOX2,KLF4,L-MYC,LIN28,p53-shRNA)を行いiPS細胞を樹立。文科省「疾患特異的iPS細胞を用いた難病研究」岡野拠点にて赤松らが確立した手順に準ずる。我々の研究グループが既報したiPS細胞から内耳前駆細胞への分化誘導(Fukunaga, Stem Cell Reports, 2017)とiPS細胞から内耳有毛細胞への分化誘導法(Oshima, Cell, 2010)を改良し、iPS細胞より内耳発達過程の様々な分化度の細胞を作出した。同方法ではiPS細胞の浮遊培養後に接着培養を行い分化制御因子としてDkk1, SIS3, IGF-1(D/S/I)添加培養、その後のbFGF添加後に鶏杯卵形嚢細胞との共培養により分化誘導を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アミノ配糖体に対する易受傷性を示す遺伝性難聴の原因としてミトコンドリア遺伝子1555A>G変異が同定された。しかしながら、その病態や有効な薬物治療は未だ見出されていない。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は様々な細胞に分化できるため、iPS細胞を難聴の標的である内耳細胞に分化誘導することにより難聴の表現型が解析可能となる。申請者の研究グループが独自開発した内耳へのiPS細胞分化誘導法(特許出願済/Fukunaga, Stem Cell Reports, 2017)を応用してミトコンドリア遺伝子1555A>G変異患者iPS由来疾患モデル細胞を樹立し、アミノ配糖体抗菌薬への易受傷性機序の解明と新規薬物治療薬の開発を目指す。 従って、疾患特異的iPS細胞を応用することで遺伝性難聴の病態機序を解明し、新規の治療薬を見出す研究が難聴研究のブレークスルーとなり得る。ミトコンドリア遺伝子1555A>G変異による難聴患者からiPS細胞を樹立し、さらに内耳細胞への分化誘導を行い、正常iPS細胞由来の内耳細胞との形態・機能解析によって疾患特異的な病態が解明できる。また疾患の表現型を示す疾患由来iPS細胞を用いて、表現型を修復させる候補薬剤をスクリーニングする。ミトコンドリア遺伝子1555A>G変異による遺伝性難聴由来のiPS細胞を用いた疾患モデルは疾患の発症メカニズムの解明、さらには新規治療薬の開発に有用となる。
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