HPV陽性頭頸部癌に対し、DNA損傷修復系因子およびAPOBEC因子が新規治療の標的となりうるか、in vitroでの解析を行った。具体的には、様々なDNA損傷修復経路のうちDNA2本鎖損傷を修復するATM経路、1本鎖損傷や複製フォークの停止を修復するATR経路、DNA2本鎖架橋を修復するFA経路に着目し、HPV陽性頭頸部癌細胞株であるUPCI090細胞と、コントロールとしてHPV陰性頭頸部癌細胞株であるSCC9細胞、SCC25細胞を用いて阻害実験を行った。阻害にはKU55933(ATM 阻害剤)とVE822(ATR 阻害剤)を用いたが、FA経路とAPOBEC因子の特異的阻害薬は今のところ存在しないので、RNA干渉によりノックダウン細胞を作成し検討した。 その結果、HPV陽性頭頸部癌細胞株においては、シスプラチン単剤投与と比べ、DNA損傷修復経路阻害+シスプラチン投与で著明に抗腫瘍効果を認めた。なかでも、ATR阻害剤併用投与群で最も顕著に殺細胞効果を認めた。APOBEC3Bのノックダウン細胞におけるシスプラチンの抗腫瘍効果はWild typeと比較してわずかに増大していたが、統計学的な有意な差は認めず、APOBEC因子阻害での抗腫瘍効果の上乗せは軽度であった。 一方、HPV陰性頭頸部癌細胞株においてはDNA損傷修復経路阻害の抗腫瘍上乗せ効果は軽度であった。HPV増殖や腫瘍化への関与が示唆されるDNA損傷修復系因子の阻害はHPV陽性頭頸部癌においてより効果を発揮し、ATR阻害剤併用によって殺細胞性のシスプラチンを低用量で投与する新たな治療戦略への寄与が考察された。
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