独立行政法人国立病院機構九州がんセンター頭頸科にて患者より手術摘出した頭頸部がん組の原発巣、頸部リンパ節転移巣、非腫瘍組織の合計20検体からRNAを抽出し、BGI JAPAN株式会社に送付して次世代シーケンサーによるRNAシーケンシングを行なった。この結果、原発巣と非腫瘍組織間の発現変動遺伝子に加えて、頸部リンパ節転移巣に特異的に高発現を示す一連の遺伝子群を同定した。これらの遺伝子群には主に細胞接着やEMTに関与する遺伝子の濃縮が見られた。さらに、これらの遺伝子群の転写を制御する転写因子の同定や転写調節領域の同定のため、現在同一患者の原発巣、頸部リンパ節転移巣、非腫瘍組織を用いてヒストンマーカーであるH3K27Ac、H3K9me3、並びに転写調節因子YAP1に対する抗体を用いたクロマチン免疫沈降シーケンシングを行った。その結果、腫瘍組織に特異的なエンハンサー及びスーパーエンハンサー領域を同定し、これらを介した転写制御にYAP1が関与していることが明らかとなった。特に、モチーフ解析の結果からYAP1と共役する可能性がある転写因子としてPITX2が同定された。PITX2は幹細胞能や筋肉組織の再生に関与するとされ、食道扁平上皮癌など複数の癌種においてがん遺伝子として報告されている。YAP1ならびにPITX2の高発現は頭頸部癌患者の予後不良因子であった。また、頭頸部癌細胞株HSC4ならびにSCC9を用いてPITX2のノックダウン実験を行ったところ、増殖能、浸潤能が有意に抑制された。PITX2ノックダウン細胞のRNAシーケンシングを行うと、部分的上皮間葉転換(p-EMT)に関与する遺伝子群や低酸素環境で発現が誘導されるがん遺伝子HIF1Aの発現が抑制されており、YAP1/PITX2による転写リプログラミング機構が頭頸部癌細胞において重要な役割を担っていることが示唆された。
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