聴覚器は空気の機械的振動をとらえる器官であり、ヒトはこの振動を音として感じ取っている。その振動をとらえる役割を担っているのがコルチ器に存在する内耳有毛細胞である。内耳有毛細胞は自己再生能がなく、その障害は不可逆的であるため、内耳性難聴における再生医療が待ち望まれている。最近、細胞極性、代謝に関与するとされるフォークヘッド型転写因子のFoxo3の内耳性難聴への関与が注目されている。今回我々は、温度感受性マウス内耳有毛前駆細胞を用いて、Foxo3が関係するTGFβシグナル伝達経路の細胞極性、繊毛形成への関与をみるとともに、そのメカニズムの解析を試み、さらに薬剤性難聴のin vitroモデルとしての可能性の検討を行った。 結果、TGF-β阻害剤処置により繊毛形成の亢進および細胞遊走能の低下を認め、同様にEGFR阻害剤処置により繊毛形成の亢進、細胞遊走能の低下を認めた。以上のことより、Foxo3の内耳有毛細胞における繊毛形成、平面内細胞極性への関与において、TGF-βシグナル伝達経路およびEGFシグナル伝達経路の関与が示唆された。そして、本培養細胞は難聴のメカニズム解析および治療法の開発のためのin vitroモデルとして有用であると考えられた。
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