研究実績の概要 |
内耳の恒常性維持には組織マクロファージが不可欠であるが、その機構はまだ完全には解明されていない。この研究では、癌免疫研究で開発されたクロマチン多重免疫染色法とイメージサイトメトリー技術(Tsujikawa et al. 2017)を蝸牛組織切片に適用し、マクロファージの表面マーカー(F4/80, CD68, CD206, Iba1, CD86, CD163)を同一パラフィン切片上で可視化に成功した。この技術により、位置情報を含むマクロファージの表現型を詳細に解析できるようになった。解析の結果、定常状態の蝸牛にも活性化しているマクロファージ群が存在し、従来のM1/M2分類に収まらない新しいタイプのマクロファージが確認された。 さらに、シスプラチン投与による蝸牛の免疫反応を調査するため、シスプラチン投与前後のマクロファージ数と表面マーカーの発現を分析した。投与後7日目には、Iba1をはじめとする神経炎症マーカーの発現が増加し、M1およびM2マクロファージの数が一時的に増加することが観察された。この免疫応答は蝸牛神経周囲で顕著であり、聴力閾値の一過性上昇と連動していた。このことから、シスプラチン誘発性難聴の病態において局所的な免疫応答が関与している可能性が示唆された。 以上の結果から、本研究は蝸牛における新しい免疫解析手法を導入することに成功し、蝸牛マクロファージの多様性とシスプラチン誘発性難聴の発症機序における免疫学的側面を明らかにした。
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