研究課題/領域番号 |
20K18327
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
佐野 塁 愛知医科大学, その他部局等, 研究員 (50813846)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 甲状腺癌 / 制御性T細胞 / 免疫抑制環境 / 免疫チェックポイント分子 / 殺細胞性Tリンパ球 / PD-1発現 |
研究実績の概要 |
今年度までに甲状腺手術症例数30名を確保しました。それぞれに対して順次多重免疫染色及びフローサイトメトリーの実験を実施しています。これまでに分かったことの一つに甲状腺癌においては制御性T細胞が末梢血に比べて癌病巣で増加していることがあります。また制御性T細胞上の免疫チェックポイント分子の発現についても同様に末梢血に比べて癌病巣で増強していました。今後さらに研究を進めどの免疫チェックポイント分子がより重要な働きを持つのかを解明します。また多くの症例で甲状腺癌病巣内へのリンパ球浸潤は少ないことが分かりました。病理組織学的にはこれまでの症例の多くは乳頭癌であったので以上のことは乳頭癌について当てはまると言えます。他の組織型では腺癌を1例確保しました。 また甲状腺癌病巣内に浸潤した殺細胞性Tリンパ球上のPD-1発現は末梢血中のTリンパ球に比べて強く発現していることも分かりました。PD-1以外のいくつかの免疫チェックポイント分子の発現も末梢血に比べて癌病巣において増強していることが明らかになりました。 以上より甲状腺癌病巣では免疫抑制環境となっていることが示唆されます。免疫抑制環境が甲状腺組織における腫瘍形成に重要な働きをしている可能性を考えています。甲状腺癌における微小免疫環境の解析は世界的に見ても研究が進んでおらず特に癌病巣内に浸潤したTリンパ球上の免疫チェックポイント分子の解析は極めて貴重な研究であります。同様に甲状腺癌における制御性T細胞の腫瘍形成における役割の研究も重要です。これらの研究から甲状腺癌での免疫環境を解析し免疫抑制状態にある原因分子を同定することが甲状腺癌に対する免疫治療の開発に大きく寄与するものと考えます。その意味でこの研究結果は極めて意義のある重要なものと考えます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに症例数を確保できており順次実験を実施していますので本研究課題はおおむね順調に進展しています。同時にこれまでに得られた実験結果を解析しており本年度中の学会発表の演題登録を既に行っています、さらに平行して現在論文作成に取り組んでいます。 研究計画での目標症例数は42例でしたが現時点で既に30例の症例を確保しています。そのうち実験結果が得られているものから解析したところ当初の推測通り末梢血に比べて甲状腺癌病巣において活性型制御性T細胞の増加が認められています。また癌病巣に浸潤した殺細胞性Tリンパ球上のPD-1発現は末梢血のTリンパ球と比べて強くなっていることが認められました。以上の結果から甲状腺癌において免疫抑制状態であることが示されます。一方で甲状腺癌に浸潤するリンパ球の数は多くなく特に癌病巣内に浸潤するものは少数であることも確認できました。このことも予想されたものです。また、フローサイトメトリーによる制御性T細胞上の免疫チェックポイント分子の解析も行っています。その結果では抹消血と癌病巣で比較したところ癌病巣内で増強しているものがいくつか認められています。同様に他のTリンパ球上の免疫チェックポイント分子の解析も行いましたがやはり癌病巣内で増強しているものがありました。このように免疫チェックポイント分子の解析も順調に進展しています。 また、これまでの症例の多くは甲状腺乳頭癌であるため以上の結果は乳頭癌についての見解と考えます。乳頭癌以外の組織型では腺癌が1名確保されておりこれについても同様に実験を実施しました。以上の様に当初の研究計画を十分遂行できており今後はさらに症例を重ねて実験を実施することで計画目標通りの研究実績が得られると考えます。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに症例数を追加し当初の目標数まで確保する方策です。確保できた症例に対して多重免疫染色及びフローサイトメトリーの実験を実施しそれらの実験結果を解析します。その結果は学会及び論文で発表します。 本研究課題の最終目的は甲状腺癌における免疫抑制環境を解明し甲状腺癌に対する免疫療法の確立です。そのためには今後さらに症例を増やし実験を遂行し詳細なデータを集めそれを解析しその結果をもとに免疫環境を明らかにする必要があります。これまでの結果からは甲状腺癌において免疫抑制状態であることが示されています。今後の課題は免疫抑制状態となる機序や原因物質の解明です。今後の研究推進方策としては免疫抑制状態のカギとなる制御性T細胞の機能を解析します。制御性T細胞上の免疫チェックポイント分子の発現をフローサイトメトリで測定してどの分子が免疫抑制に関与しているのかを解明します。また、どの分子が制御性T細胞の活性化をコントロールしているのかを解明します。それによって制御性T細胞を抑制するための目標分子が判明します。その結果として甲状腺癌に対する免疫療法が開発されると考えています。 次にこれまでの結果から甲状腺癌病巣内にはリンパ球浸潤が少ないことが分かっています。リンパ球の中でも殺細胞性Tリンパ球が腫瘍免疫においては重要な働きを持ちます。この細胞がなぜ甲状腺癌では浸潤しにくいのか、また癌病巣のどこに分布しておりどこに乏しいのかを解明します。さらにその細胞上の免疫チェックポイント分子をフローサイトメトリーで解析しどの分子が細胞の活性化に寄与しているかを解明します。その結果を基礎として甲状腺癌病巣への殺細胞性Tリンパ球の浸潤を促進する治療を開発します。 これまで乳頭癌のデータが主に解析されてきましたが今後は未分化癌などより悪性度の高い組織型の症例データも積極的に確保する方針です。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも実験に必要な経費が少なかったことが理由として挙げられます。また、新型コロナウィルス感染症の影響で学会がオンライン形式での実施となることが多く旅費など必要経費が削減できたことも大きな原因です。特に国際学会についてはオンライン形式となることが多く多額の旅費が削減できました。 実験経過については当初の計画通りに症例数を確保でき、順次実験を実施しております。実験に必要な物品についてはできる限り無駄の無いように効率的に実験を行うようにしていることが経費削減に寄与していと考えます。また実験をするにあたっても事前に十分に準備を行い手順のシミュレーションを行うことにより失敗をなるべく最小限に抑えることに成功していることも必要経費の削減に繋がっていると考えます。 次年度使用額の使用計画については今後の追加症例に対する実験で使用する計画です。今後はさらなる症例の増加が見込まれるため大変貴重な次年度使用額分を最大限有効に使用する計画です。また、研究が進むにつれて免疫チェックポイント分子の解析が明らかとなり、必要な実験が増えることが予想されます。そこでの必要経費にさせて頂きます。今年度は国際学会での現地発表も可能になると考えておりますのでその経費に使用させて頂きます。並行して現在論文作成しておりますのでその経費での使用を計画しております。
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