研究課題/領域番号 |
20K18340
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
倉田 健太郎 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (20467244)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 網膜色素変性 / X連鎖性網膜色素変性 / 遺伝子診断 |
研究実績の概要 |
網膜色素変性症(RP)は遺伝性網膜疾患の1つで、これまで約80個の原因遺伝子が報告されている。遺伝形式は常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性遺伝(XL)があり、孤発例も多く存在する。RPの中でXLRPの重篤度は高く、原因遺伝子として主にRPGR、RP2が報告されている。 現在、RPに対する有効な治療法は存在しないが、欧米ではRPGRに対する遺伝子治療の治験が臨床応用に向けて進行している。この治療の適応に原因遺伝子の特定が必須である。更に治療効果の判定に疾患の長期的な自然経過の理解が必要である。本研究はX連鎖性遺伝が疑われるRP患者、または重篤な臨床像を呈しているRP患者を中心に症例収集を行い、遺伝子解析を行う。遺伝子解析の結果、XLRPの原因遺伝子が同定された患者の詳細な臨床検査を行い、臨床データの蓄積を行う。 本年度は収集済みRP患者に既報のRPの原因遺伝子を解析対象として次世代シーケンサーを用いて遺伝子解析を実施した。症例は32歳男性。20歳頃より夜盲と羞明があり、近医でRPと診断されていた。27歳時、1か月前から急激に進行する左眼の視力低下があり、当科を紹介され初診した。初診時矯正視力は右(1.2)、左(0.02)だった。骨小体様色素沈着を伴う典型的なRP所見に加えて、右眼に視神経乳頭発赤と、左眼に蒼白視神経乳頭を認めた。視野検査では両眼の求心性視野狭窄に加えて、右眼の傍中心暗点と左眼の中心暗点を認めた。RPにレーベル遺伝性視神経症様の病態が合併したものと考えられた。本症例に全エキソーム解析を施行したところ、COQ2遺伝子に複合ヘテロ接合性変異を検出した。神経学的検査では異常を認めなかった。COQ2遺伝子異常による本症例は典型的なRPの眼底所見を示し、視神経症を合併した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はわが国のX連鎖性遺伝が疑われるRP患者、または重篤な臨床像を呈しているRP患者の収集を行い、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析を行う。遺伝子解析の結果、XLRPの原因遺伝子が同定された患者の詳細な臨床検査を行い、臨床データの蓄積を行う。本研究で蓄積した遺伝情報と臨床情報の利活用により、臨床の場で自然経過に伴う視機能の予測が可能となり、RP患者のQOL向上が期待できる。昨年度に収集したX連鎖性遺伝が疑われる2家系に対して遺伝子解析を施行した。 (1) 症例1は21歳男性。網膜色素変性症にて当科通院中であった。矯正視力は右(0.7)、左(0.6)。両眼底に骨小体様色素沈着や網膜血管狭窄、視神経委縮などの典型的な網膜色素変性症の所見を認めた。視野検査では両眼ともに求心性視野狭窄を認めた。光干渉断層計では網膜は全体的に菲薄化し、ellipsoid zoneは高度に障害されていた。家系図からX連鎖性遺伝が疑われ、本症例に全エクソーム解析を施行したところ、RP2遺伝子にヘミ接合性変異(c.5G>T)を同定した。 (2) 症例2は67歳女性。女性患者であるが、家系内に男性患者が多く存在しており、X連鎖性遺伝が疑われた。矯正視力は右(0.4)、左(0.3)。両眼底には強い近視性変化、粗造な網膜と広範囲な網膜色素上皮萎縮を認めた。視野検査では両眼ともに高度な求心性視野狭窄を認めた。光干渉断層計では網膜は全体的に菲薄化し、ellipsoid zoneは高度に障害されていた。本症例に全エクソーム解析を施行し、RP2遺伝子にヘテロ接合性変異 (c.376delG)を同定した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本年度の下記研究を引き続き実施する。 (1)X連鎖性遺伝が疑われるRP患者、または重篤な臨床像を呈しているRP患者の収集 本年度と同様に症例の収集を進める。 (2)既報の網膜色素変性の原因遺伝子を解析対象とした全エクソームシークエンス解析による変異探索 遺伝子解析の方法は引き続き全エクソームシークエンス解析を行う。これによりRPの原因遺伝子だけではなく、遺伝性網膜変性の原因遺伝子やその他関連遺伝子の変異について検討が可能となり診断率の向上が期待出来る。また、RPGRは本研究で用いる遺伝子検査法では変異検出が困難な領域(ORF15)が存在しており、その領域のみ別途サンガー法にて変異探索を行う。蓄積した遺伝データから、日本人XLRPに寄与している原因遺伝子の割合を調査する。さらに、来年度は上記過程で原因遺伝子を同定可能であった症例に対して詳細な臨床検査を行い、臨床データを蓄積する。臨床データに関しては、すでに通院している患者の場合には、過去の臨床データも解析する。X連鎖性網膜色素変性症以外の原因遺伝子が検出された場合は、X連鎖性網膜色素変性症の臨床像と比較する為に変異情報と臨床像を蓄積する。患者の家系内で協力が得られた女性キャリアにおいても同様に遺伝子検査及び臨床検査を行う。蓄積した臨床データから予後予測を行い、臨床の場で活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
バイオインフォマティクスの分野を担当するスタッフが突然の体調不良を患ってしまった。そのため、計画していた遺伝子解析の一部を行うことができず、ゆえにそれにかかる物品の購入を行えなかったため、次年度使用が生じてしまった。本年4月から別の者がバイオインフォマティクスの分野を担当することとなったため、本年度に予定していた遺伝子検査を次年度に繰り越して行う。
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