研究実績の概要 |
網膜色素変性症(RP)は遺伝性網膜疾患の1つで、これまで約80個の原因遺伝子が報告されている。遺伝形式は常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性遺伝(XL)があり、孤発例も多く存在する。RPの中でXLRPの重篤度は高く、原因遺伝子として主にRPGR、RP2が報告されている。 現在、RPに対する有効な治療法は存在しないが、欧米ではRPGRに対する遺伝子治療の治験 (Phase 3)が進行中である。遺伝子治療の適応に原因遺伝子の特定が必須である。更に治療効果の判定に疾患の長期的な自然経過の理解が必要である。本研究はXLが疑われるRP患者、または重篤な臨床像を呈しているRP患者を中心に症例収集を行い、遺伝子解析を行う。遺伝子解析の結果、XLRPの原因遺伝子が同定された患者の詳細な臨床検査を行い、臨床データの蓄積を行う。 我々はこれまでに、12家系からXLRPの原因遺伝子を同定してその臨床像を報告した (Kurata K, et al. Int J Mol Sci. 2019) 。今回、新たに2家系2症例においてXLRPの原因遺伝子に変異を同定した。1症例目は幼児期から視力不良がある男性。20歳代の矯正視力は右眼0.9、左眼0.7で、求心性の視野狭窄があり、眼底にはびまん性の網脈絡膜萎縮を認めた。網膜電図は消失型で、RPと診断した。RP2遺伝子に変異を同定した。母親の矯正視力は両眼とも1.5で、網膜電図にはほぼ異常を認めず、眼底自発蛍光では特徴的な放射状過蛍光を認めた。2症例目は50歳代後半から夜盲の自覚がある女性で、近医を受診したところRPの診断を受けた。矯正視力は両眼とも0.3だった。母方の祖母、叔母の家系2人(男性)がRPの診断を受けていた。眼底はびまん性の網脈絡萎縮を認めた。網膜電図は消失型で、視野は求心性視野狭窄が高度だった。RP2遺伝子に変異を認めたため、キャリアと考えられた。
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