研究実績の概要 |
本研究では、篩状板を有する小型霊長類のコモン・マーモセットを用いた視神経挫滅モデルの確立と、転写活性因子であるElk-1の遺伝子治療による視神経再生に挑戦している。本年度は、主にElk-1蛋白の眼における障害後の役割について解析を追加した。マウスの網膜神経節細胞におけるElk-1の発現を解析したところ、障害のない眼では発現がわずかに認められる程度であったが、視神経障害モデルでは視神経挫滅後約3時間でElk-1の発現が上昇し、障害後約3日にわたって発現が亢進していることがわかった。また、マウス海馬細胞の初代培養を用いた解析では、Elk-1は細胞内における局在が認められ、障害のない状態では主に細胞質に存在し、障害がある状態では細胞核の中に移動することがわかった。一方で、Elk-1の細胞内の局在と活性は、セリン383とセリン389のリン酸化が特に重要であることがわかり、Elk-1の軸索成長における機能に不可欠であることを解明した。この結果は、近年報告されているElk-1に関する各リン酸化部位によるリン酸加速度の違いや転写活性に与える影響と一致していた(Mylona et al. Science, 2016)。本結果より、コモン・マーモセットにおけるより効率的なウイルスベクターの作製の1つとして、S383E/S389A doubule mutation AAV-2-Elk-1(2型アデノ随伴ウイルスベクター)を候補に挙げた。本研究で確立されたコモン・マーモセットの視神経挫滅モデルを用いて、アデノ随伴ウイルスベクターによる網膜神経節細胞でのElk-1蛋白の過剰発現とその効果の確認に現在取り組んでいるでいるが、コモン・マーモセットの網膜神経節細胞に効率的に感染する十分量のウイルスベクターの安定した作製に難渋しており、今後の残された重要な課題となった。上記成果の一部は国際科学雑誌であるScientific Reports に掲載された。
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