研究課題/領域番号 |
20K18389
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
辻中 大生 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50596749)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 加齢黄斑変性 / 網膜色素上皮細胞 / 喫煙 / ハイドロキノン |
研究実績の概要 |
加齢黄斑変性発症にはいくつかのリスクファクターがあげられているが、その中でも重要である喫煙に着目し、煙に含まれる還元剤として重要な、ハイドロキノンがiPS由来培養網膜色素上皮のメラニン産生に与える影響について、生存細胞数の変化や細胞のアポトーシスの有無、メラニン産生能力の変化、メラニン産生に重要なチロシナーゼを含む、メラニン産生カスケードの変化を分子生物学手法(WST-8アッセイ、Real-time RT-PCR法)を用いて検討した。 まず、従来より汎用されている網膜色素上皮培養細胞であるARPE-19細胞の培養液中に濃度を変えたHQ を添加し24時間培養、細胞増殖能生存細胞数をWST-8で測定した。その結果、生存細胞数に変化のないHQ濃度(2μM)を決定した。ARPE-19およびiPS-RPE細胞にHQ(2μM)を添加し、24時間培養後、Real time RT-PCR法でメラニン産生関連遺伝子のmRNA量を測定し比較した。結果、ARPE-19培養細胞ではメラニン産生関連遺伝子の発現が極めて乏しく、またHQ添加(2μM)によって有意な差を認めなかった。しかし、iPS-RPE細胞ではARPE-19と比べて有意にDCT、OCA2、TYR、TYRP1遺伝子のmRNA発現が多く、HQ添加(2μM)によってTYR遺伝子を除くすべての遺伝子でmRNA発現量が有意に低下していた。iPS-RPE由来培養細胞はARPE-19と比べてメラニン産生関連遺伝子の発現量が有意に多く、また、その発現は生存細胞数に影響を与えない濃度のHQ添加によって有意に抑制された。これらの結果は、喫煙が網膜色素上皮の色素産生能の変化に与える影響ついて検討した画期的な結果であり、これらを発展させていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、加齢黄斑変性のメカニズム解析における、網膜色素上皮の色素産生能の変化についての検討は順調に推移しており、上記の結果については2021年の日本眼科学会にて発表を行った。また、加齢黄斑変性のメカニズム解明として、今後動物実験や、さらなる詳細な分子メカニズムの解明を検討しており、それに関しても準備を進めている段階である。コロナ感染症の影響で、一部試薬に配送遅延や、欠品が生じ、また学会がWeb開催へ変更されるなど、順調とは言えない部分もあったが、研究全体はおおむね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
【2年目】網膜色素上皮層への可視光の透過性の変化を特に細胞障害性が高いとされる青色光(380-500nm)を中心として吸光度計を用いて検討する。もし、ハイドロキノンによって網膜色素上皮のメラニン産生が低下していた場合、メラノサイト活性因子であるメラノサイト刺激ホルモン(α―MSH)を投与することで、産生能が回復できるかを検討する。 【3年目】 In vivo実験として、C57BL/6マウスに一定期間ハイドロキノン含有の餌を与えた際における、RPE細胞の機能的変化について通常餌を与えた群と比較検討を行う(マウス色素上皮を含む脈絡膜を採取し、メラニン量をWestern blotにて測定、また凍結切片作成の上、RPE、脈絡膜層の病理学的変化を検討する。 また、通常餌群とハイドロキノン含有餌群に青色有害光を照射した際の網膜、並びに脈絡膜に与える影響を検討する。具体的には、有害光照射後のマウス硝子体液中のアルブミン濃度をELISA法で用いて測定し血管透過性の変化を推定する。またそのとき網膜と脈絡膜を採取し、炎症関連遺伝子(VEGF、PEDF、HIF、アンジオポエチン-1,2、Wntシグナル経路等)の変化を検討する。さらに、コンカバナリンAによる血管内灌流を行い、網膜血管内における好中球数の変化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外学会での発表・情報収集を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、渡航することが出来なくなり、学会参加旅費の支出が不要になったため。また、一部試薬に欠品や納期延期が発生したため、購入できなかったため。
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