ルミカン遺伝子欠失マウスで角膜全層切開モデルを作成し、デスメ膜間の距離を測定した。切開5日目では、デスメ膜間の距離は、ルミカン遺伝子欠失マウスでは野生型マウスに比べて有意に大きかった。創部における筋線維芽細胞の出現は、ルミカン遺伝子欠失マウスの角膜では抑制されていた。筋線維芽細胞の出現が低下することによりルミカン遺伝子欠損マウスでは角膜実質の創傷治癒が遅延したと考え、ルミカンは角膜実質切開創の治癒に促進的に関与している可能性を想定したためその機序解明を目的として培養研究での検討を行った。 In vitroの実験では、生後1日のマウス眼球を刻んで得た培養眼線維芽細胞にTGFβ1を添加して時間経過における変化を観察したところ、ルミカン遺伝子欠失マウスの培養細胞ではα-平滑筋アクチンとコラーゲンIa1発現がダウンレギュレートされることが示された。傷害を受けた間質ではPCNA染色をもちいて測定した細胞増殖率が上昇していたが、このことはアラマーブルー染色でのin vitroのデータからも裏付けられた。また、収縮性を評価できるゲルキットにて収縮性を評価したところ、野生型マウスの培養細胞を混合したゲルと比較して、ルミカン遺伝子欠失マウスの培養細胞を混合したゲルでは収縮が抑制された。 これらのことより、ルミカンは間葉系細胞でのTGFβ1経路を介したαSMA発現に関与しており、ノックアウトマウスの角膜実質創傷治癒の遅延の機序にこれが含まれる可能性があることを発見した。これらのことを論文にまとめ、2023年10月のThe Ocular Surface誌に掲載された。
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