研究課題/領域番号 |
20K18393
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三輪 幸裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30870430)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低酸素誘導因子 / Hypoxia-inducible factor / 難治性網膜疾患 / 網膜変性 / 網膜病的血管新生 / HIF-1α |
研究実績の概要 |
本年度は、難治性網膜疾患の主要な病態機序の一つである、網膜の病的血管新生に対する治療法に関する検討を行った。現在まで、網膜病的血管新生に対しては、抗VEGF抗体が広く臨床応用され、一定の治療成果をあげている。一方、長期に渡る抗VEGF抗体の使用に伴う弊害も報告されている。そこで、網膜病的血管新生に対し、VEGFの上流に位置する転写因子である低酸素誘導因子(Hypoxia-inducible factor: HIF)を阻害する物質の治療的効果を検証した。ここで用いたHIF阻害物質は、昨年度行ったドラッグスクリーニングにより得られた、“きのこ由来物質2-azahypoxanthine(AHX)”と“魚類由来物質”を用いた。既存のHIF阻害剤の多くは抗がん剤であることから、いずれもの物質も既存のHIF阻害剤と比べ高い安全性が期待される物質である。両物質とも、その投与により、VEGFを抑制することで、明らかな合併症を示すことなく網膜の病的血管新生を抑制する可能性が示された。 また、新たな網膜変性モデル動物として、マウスの総頚動脈を一時的に閉塞することで、網膜虚血・網膜変性を誘導することができるモデルマウスを作成し、論文報告した。網膜の主要な栄養血管は眼動脈である。そして、眼動脈は総頚動脈に由来する。そこで、このモデルマウスでは総頚動脈を2秒間閉塞することのみで、網膜の急性の虚血・変性を簡便に素早く誘導することができる有用なモデルである可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、網膜変性性疾患に対しHIF阻害剤が治療的効果を有していることは、複数のHIF阻害剤を用いて確認している。また、治療的効果の分子機序としてHIF-1α/BNIP3軸が関与していることが示唆される結果を得ている。一方、網膜変性性疾患において、どのようなメカニズムでHIFの発現が亢進しているのかに関する検証については、進行が遅れている。 当初、光受容を行ううえで重要な発色団である、レチナールの組成変化がHIFの過剰発現を誘導しているとの仮設をもとに研究を行っていた。しかし、レチナールによるHIF誘導に再現性が見いだせず、仮説の再設定を余儀なくされている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得ているデータから、HIF阻害剤による網膜変性性疾患に対する治療的効果を証明することは可能であると考えられる。一方、網膜変性性疾患におけるHIF発現亢進メカニズムに関しては新たな仮説設定が必要である。今後は、神経細胞が変性する過程で発現変化がみられる様々な因子に着目し、それら因子のHIF安定化作用を、まずはin vitroにおいて検証する。その後、種々のマウス網膜変性モデルにおいて、網膜変性の進行過程における各種因子の発現変化を確認する。
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