網膜色素変性や萎縮型加齢黄斑変性などの網膜変性疾患は、網膜視細胞死を特徴とする難治性網膜疾患である。現在までに、確立された治療法や予防法は存在せず、我が国における中途失明原因の20%超を占め、その社会的コストは20兆円とされており、早急な治療法の確立が求められている。それら難治性網膜疾患の主たる病態機序は神経細胞死である。本研究では、低酸素誘導因子(Hypoxia-inducible Factor; HIF)という転写因子に着目し、HIFを制御することで、網膜神経細胞死が抑制され、網膜変性疾患の進行抑制効果が得られるという仮説を立て、HIF阻害剤の治療的効果とその分子機序を検証することを目的とした。また、毒性の高い既存のHIF阻害剤に代わる、安全な新規HIF阻害剤の探索も重要な課題とした。 本研究では、これまでに、種々の網膜疾患モデルマウス(レーザー誘発性脈絡膜新生血管モデルマウス、酸素誘導網膜症モデルマウス、網膜光障害モデルマウス、網膜虚血再灌流障害モデルマウス)における網膜神経変性や網膜病的血管新生に対する、既存のHIF阻害剤による疾患抑制効果を報告してきた。また、植物や魚類などの様々な食品由来抽出物にHIF阻害活性があることを見出し、特許申請を行った。さらに、食品由来新規HIF阻害物質の持つ、網膜疾患モデルマウスに対する治療的効果に関して報告を行ってきた。 本年度は、あじさい抽出物に由来する新規HIF阻害剤ハロフジノンの、マウス網膜光障害モデルにおける網膜神経変性の抑制効果や、魚類抽出物に由来するタウリンの、マウス酸素誘導網膜症モデルにおける網膜病的血管新生・神経変性の抑制効果に関し、国内外の学会で報告を行った。
|