研究課題
脱毛症は外傷や化学療法など様々な原因により毛密度が減少する皮膚障害で、患者の整容上の問題やQOL(生活の質)の低下を引き起こすが、根治的な治療法は未だ確立していない。その新規治療法を実現するために、多くの成長因子やサイトカインを含有し、創傷治癒促進効果を有する多血小板血漿(PRP)の毛包賦活効果に着目し、PRPを利用した増幅効率の高い毛乳頭細胞の培養法を開発する。本年度は、まず臨床検体の採取、ヒト毛乳頭細胞の初代培養を行った。次に、毛乳頭細胞を賦活する最適な「PRP調製法」を検索するため、ヘパリン、血液保存液(ACD)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のいずれかを用いてPRPの調製を行い、それぞれのPRPを含有する培地で細胞増殖試験を行ったところ、ヘパリン群とACD群ではPRPの濃度依存性に増殖活性が上昇したが、EDTA群ではPRPが高濃度になると細胞の増殖活性がプラトーに達することを確認した。以降の実験では、ヘパリンを用いて調整したPRPを使用して、ヒト毛乳頭細胞の増殖試験を行った。BrdU取込みアッセイ及びフローサイトメトリーを行ったところ、対照群(FBS含有群)と比較してPRP含有群では、BrdU陽性細胞の割合が多いことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
研究計画書の予定通り、ヒト毛乳頭細胞の初代培養、多血小板血漿の調製、細胞増殖試験、BrdU取込みアッセイを全て行うことができた。次年度では、引き続き賦活された毛乳頭細胞の「毛包誘導能」を評価するため、賦活毛乳頭細胞に発現している毛乳頭細胞マーカー遺伝子の発現レベルを解析する。また当細胞の機能(毛包再構築能)を評価するため、in vivoでの毛包再構築実験を行う。
実験の遂行に必要な実験機器は当研究室に既に備わっており、消耗品に関しては支給助成金の範囲内で購入可能である。研究計画書に従って研究を推進していく予定である。
消耗品調達の方法を工夫したことで、当初計画より経費の使用が節約できたため未使用額が生じた。また新型コロナウイルスの影響で参加を予定していた学会が延期となり、学会参加費用が不要になった。さらに新型コロナウイルスの影響により、予定していた研究試薬の納品が年度内に実施できないため、研究遂行上必要な当該研究試薬の納品が見込まれる次年度まで消耗品費の使用を延期する必要が生じた。現在研究計画書の予定通り研究を遂行できているが、次年度に計画している実験において当該未使用分を使用する予定である。
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