先天異常手に関する客観データは、症例数の面でも、1症例において記録されている情報量の面でも非常に限られている。先天異常手の治療におけるフィードバックと再現性を増やす必要を感じて本研究を行なってきた。本研究を開始した時点の想定から外れた変化が2点あり、研究の進行に影響を受けた。ひとつはコロナパンデミックであり、診療を含む人と接触の必要な作業が大きく制限された。この間は、解剖学講座の協力を得て手の機能に関わる解剖を行い結果を報告した。もうひとつは、サプライチェーンの分断による半導体等の高騰である。電子機器は一般的な傾向として小型化し低価格化してきたが、光学式モーションキャプチャはむしろより高価になり研究資金では賄えない価格となってしまった。このため、臨床現場に早期実装可能な評価法を優先すべきであると考え、光学式ではなくジャイロ式センサーを用いることに変更した。 直近4年間の成果として、指、あるいは任意の身体部位に小さなセンサを設置するだけで、基準点に対する相対的な運動を計測することのできるジャイロセンサシステムを開発することができた。これは、小さな無線センサとPC用ソフトウェアから成る。センサは複数個を同時接続して、相対的な角度変化を記録することができる。これにより、成人の指であれば運動を経時的データとして記録することができる。本システムの利用例として、示指の末節にセンサを設置し、手背に基準となるセンサーを設置することで、示指の屈曲、伸展角度の変化が記録できることを報告した。 現在取り組んでいる課題は、成人における動作時の手の動きデータを集積することと、用いるセンサを小型化し小児にも装着可能にすることである。
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