本研究では、転写因子Ascl1の味蕾細胞分化における機能を明らかにするため、オルガノイド技術とCre/loxPシステムとを組合わせることで、味蕾細胞における分化制御システムの解析を行った。Ascl1-CreERT2/CAG-floxed tdTomato マウスから作製した成熟味蕾オルガノイド内では多数のtdTomato発現細胞を認め、それらは味細胞マーカーを発現することが分かった。同マウスの新生仔を用いて、初期発生味蕾におけるAscl1発現細胞系譜の追跡を行った。初期発生味蕾においてtdTomato発現細胞の多くはIII型細胞マーカーを発現し、一部はII型細胞マーカーを発現することが分かった。Ascl1-CreERT2/ CAG-floxed Neo-DTAマウスから味蕾オルガノイドを作製し、培養環境下でAscl1発現細胞に特異的な細胞死の誘導を行った。成熟味蕾オルガノイド内では、III型細胞に加え、II型味細胞の生成が抑制されることが分かった。同マウスの新生仔を用いて、初期発生味蕾においてAscl11発現細胞に特異的な細胞死の誘導を行った。実験群の舌乳頭上皮では、対照群と比較して、Ascl1遺伝子発現量の有意な減少を認めた一方で、II型およびIII型細胞マーカー遺伝子の発現量に有意差を認めなかった。以上の結果よりAscl1はIII型細胞に加え、一部のII型細胞の分化に関わることが示唆された。
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