研究実績の概要 |
矯正治療による歯根吸収の発生には歯根膜における炎症性サイトカインの発現が関与しており、過去の研究からNotch、Wnt、TGF-βシグナル伝達がそれらのサイトカインの発現を制御していることが明らかになっている。また、近年の研究でHedgehogシグナルが多細胞生物の発生現象において重要な役割を演じており, 骨芽細胞や軟骨細胞の分化を制御し, 骨形成に深く関与していることが報告されており、Hedgehogシグナルの一つであるSonic Hedgehog (SHH) が顎骨における破骨細胞形成を促進させることが示唆されている。このことより、矯正学的歯の移動時に生じる歯根吸収の発生にはNotch、Wnt、TGF-βシグナル伝達のみならず、Hedgehogシグナル伝達が関与している可能性が考えられる。そこで本研究では、歯根膜細胞と破歯前駆細胞におけるシグナル伝達経路間のクロストークに焦点を当て、矯正治療における歯根吸収メカニズムについて検討した。 In vivoにおいて、ラットの臼歯を50gの矯正力にて牽引し、当該部の切片は免疫組織科学染色を行った。In vitroでは、ヒト歯根膜細胞(hPDL cells)に至適矯正力モデルとして1.0g/cm2、強い矯正力モデルとして4.0g/cm2の荷重 (compression forces : CF)を作用させ、CF群とし、遺伝子・タンパク発現量を検討した。 In vivoでは矯正力を加えたラットの圧迫側歯根膜にはJagged1、Wnt5a、TGF-β1、SHH、RANKL、IL-6陽性細胞の増加が認められた。In vitroではhPDL cellsにおいて、CF4g群ではJagged1、Wnt5a、TGF-β1、SHH、RANKL、IL-6のmRNAの遺伝子・タンパク発現の増加が認められた。このことから、矯正学的歯の移動時における歯根吸収にHedgehogシグナル伝達が関与していることが示唆され、Notchシグナル伝達、Wntシグナル伝達、TGF-βシグナル伝達が相互に関与している可能性が考えられる。
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