研究課題/領域番号 |
20K18474
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
広瀬 雄二郎 大阪大学, 歯学研究科, 特任研究員 (90788407)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 化膿レンサ球菌 / アルギニン代謝 / 病原性 / フィラグリン / 皮膚病変 |
研究実績の概要 |
化膿レンサ球菌は致死性の高い劇症型レンサ球菌感染症を引き起こす。本疾患において、化膿レンサ球菌の侵入は、半数以上が皮膚軟部組織感染症より生じると言われている。皮膚表面は糖質が少ないため、化膿レンサ球菌の生存に適した環境ではない。その一方で、化膿レンサ球菌は糖質が少ない培養環境で、増殖を止め、病原性を上昇させ、アミノ酸代謝の中でも特にアルギニン代謝を更新させることが報告されてきた。しかし、アルギニン代謝と病原性の関連性は不明な点が多く残されていた。 そこで、化膿レンサ球菌のアルギニン代謝が遺伝子発現および病原性に与える影響を検討した。その結果、糖質が無い低栄養環境では、化膿レンサ球菌がアルギニンを代謝して細胞溶解毒素などの発現を上昇させ、病原性を発揮することが明らかとなった。 次に、生体に対する病原性の違いに影響するかを検討するため、マウスの皮膚表面感染モデルを用いた。皮膚表面はグルコースなどの糖質濃度が低いことが報告されているためである。また、皮膚組織由来のアルギニンを化膿レンサ球菌が利用するかを調べるために、皮膚の角層細胞を構成する主要なタンパク質であるフィラグリンの発現が欠失したマウスを利用した。アルギニンはフィラグリンの分解産物として、角質層に豊富に含まれるためである。野生型マウスとフィラグリン発現が欠失したマウスの両方において、アルギニン代謝能力を持っている化膿レンサ球菌およびアルギニン代謝能力を失った化膿レンサ球菌を皮膚表面に感染させた。その結果、野生型マウスへの感染実験では化膿レンサ球菌のアルギニン代謝能力が皮膚病変の形成に重要であった。それに対し、フィラグリン発現が欠失したマウスへの感染実験では、化膿レンサ球菌のアルギニン代謝能力が病変形成に関与していなかった。 以上から、化膿レンサ球菌がフィラグリン由来のアルギニンを利用して皮膚病変を引き起こすことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果で、糖質が乏しい環境において、化膿レンサ球菌のアルギニン代謝能力は、菌の生存および病原性に大きく貢献していることを解明した。本研究成果は、米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
一年目では、化膿レンサ球菌のアルギニン代謝能力は、菌の生存および病原性に大きく貢献していることを解明することができた。しかし、IL-1β過剰発現をもたらす化膿レンサ球菌分子の選出については検討が進んでいない。次年度では特に、IL-1β過剰発現をもたらす化膿レンサ球菌分子の選出および宿主細胞によるIL-1β過剰発現機構の解析に力を入れて取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により研究時間が制限され、円滑に研究遂行できなかったため、371,576円の次年度使用額が生じた。次年度においては、研究を迅速に進めるために、試薬キットなど消耗品の購入、およびサブクローニングやリアルタイムPCR解析等に用いる合成オリゴの購入に使用する。
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