ジカウイルスの細胞侵入能を規定するアミノ酸の同定と神経変性疾患の増悪機序の解明

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K18482
• 研究機関: 大分大学
• 研究代表者: 神山 長慶 大分大学, 医学部, 助教 (50756830)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: ジカウイルス / SRIPs / EAE / ケモカイン

研究実績の概要

我々はこれまでに、ジカウイルスのアフリカ株がアジア株に比べてマウスに対する病原性が高いこと、さらにジカウイルスにあらかじめ感染したマウスは非感染マウスに比べて、多発性硬化症のマウスモデルEAEの症状が増悪化することを見出した。
昨年度はジカウイルスのアフリカ株とアジア株の間のアミノ酸配列の違いを手がかりに、1回感染性ジカウイルス様粒子(SRIPs)をアフリカ株とアジア株のアミノ酸がキメラ状になるように様々なパターンで作製した。これらを用いることで、エンベロープ領域のある部分がアフリカ株型のアミノ酸配列であれば細胞への侵入能が高くなり、アジア株型の配列であれば低くなることを見出した。エンベロープ領域の当該部分にはアフリカ株とアジア株の間で5箇所のアミノ酸の違いがある。本年度はこの5アミノ酸それぞれの1アミノ酸変異SRIPsを作製することで、細胞侵入能に重要な1つのアミノ酸を絞り込むことに成功した。
さらに、ジカウイルスがEAEを増悪化させるメカニズムの解析として、ジカウイルスがEAEの増悪因子として知られるTh17細胞の分化を亢進させる可能性を検証した。その結果、ジカウイルス感染はTh17細胞分化に影響を与えることはなかった。加えて、ジカウイルスによるEAE増悪のメカニズムの解析として、ウイルス感染により中枢神経系でのTh17細胞誘引性ケモカインの産生が誘導され、Th17細胞の中枢への遊走が亢進している可能性を検証した。ジカウイルス感染マウスの中枢では特にTh17細胞が高発現するケモカイン受容体CCR1, CCR2, CCR6のリガンドとなるケモカイン群の発現が有意に上昇することを見出した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度はジカウイルスの細胞侵入能に重要な1つのアミノ酸を絞り込むことに成功した。さらに、ジカウイルスがEAEを増悪化させるメカニズムの解析として、ジカウイルス感染がTh17細胞分化に影響を与える可能性を否定し、ジカウイルス感染がTh17細胞誘引性ケモカインを中枢神経系で誘導することを明らかにすることができた。
以上の理由より、本研究はおおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

今後はどのようなメカニズムでジカウイルス感染が中枢神経系でTh17細胞誘引性ケモカインを誘導するのかを、これらケモカインの誘導に関与することが予想されるシグナル伝達分子の遺伝子欠損マウスを用いて明らかにする。
さらにCCR1, CCR2, CCR6の遺伝子欠損マウスを用いることで、ジカウイルス感染によるEAEの増悪化にどのケモカインとケモカイン受容体が関与するのかを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

本年度の実験は主にクローニングや細胞実験が主体であったため、次年度使用額が生じた。
次年度の研究計画は遺伝子組み換えマウスにEAEを誘導する動物実験が主体になるため、実験動物飼育管理費やEAE誘導試薬の購入費が必要になる。次年度使用額は請求した助成金と合わせ、上記目的に使用する。

研究成果

• [雑誌論文] Protease inhibitory activity of secretory leukocyte protease inhibitor ameliorates murine experimental colitis by protecting the intestinal epithelial barrier (2021)
  • 著者名/発表者名: Sotaro Ozaka, Akira Sonoda, Shimpei Ariki, Naganori Kamiyama, Shinya Hidano, Nozomi Sachi, Benjawan Saechue, Astri Dewayani, Thanyakorn Chalalai, Yasuhiro Soga, Yuya Takahashi, Chiaki Fukuda, Kazuhiro Mizukami, Ryu Okumura, Hisako Kayama, Kazunari Murakami, Kiyoshi Takeda, Takashi Kobayashi
  • 雑誌名: Genes to Cells 巻: 26 ページ: 807-822
  • DOI: 10.1111/gtc.12888.
  • 査読あり
• [学会発表] Zika virus (ZIKV) induces pathogenic T cells-attracting chemokines in a TRAF6 signaling-dependent manner in astrocyte, and exacerbates EAE (2021)
  • 著者名/発表者名: Naganori Kamiyama
  • 学会等名: Joint Symposium & Workshop: Uniersitas AIRLANGGA and OITA University
  • 国際学会
• [学会発表] Zika virus infection exacerbates Experimental Autoimmune Encephalomyelitis (2021)
  • 著者名/発表者名: Naganori Kamiyama, Benjawan Saechue, Astri Dewayani, Chalalai Thanyakorn, Sotaro Ozaka, Shimpei Ariki, Chiaki Fukuda, Yasuhiro Soga, Mizuki Minata, Nozomi Sachi, Shinya Hidano, Takashi Kobayashi
  • 学会等名: International Meeting_the 3rd Chulalongkorn-Oita University Joint Mini-Symposium
  • 国際学会
• [学会発表] Zika virus induces Th17 cell-attracting chemokines in the central nervous system and exacerbates neurological disorders (2021)
  • 著者名/発表者名: Naganori Kamiyama, Benjawan Saechue, Astri Dewayani, Chalalai Thanyakorn, Sotaro Ozaka, Shimpei Ariki, Chiaki Fukuda, Yasuhiro Soga, Mizuki Minata, Nozomi Sachi, Shinya Hidano, Takashi Kobayashi
  • 学会等名: 第44回日本分子生物学会年会
• [学会発表] Zika virus induces Th17 cell-attracting chemokines in the central nervous system and exacerbates experimental autoimmune encephalomyelitis (2021)
  • 著者名/発表者名: Naganori Kamiyama, Benjawan Saechue, Astri Dewayan, Thanyakorn Chalalai, Yasuhiro Soga, Chiaki Fukuda, Sotaro Ozaka, Shimpei Ariki, Nozomi Sachi, Shinya Hidano, Takashi Kobayashi
  • 学会等名: 第14回寄生虫感染免疫研究会