自己免疫状態が腫瘍発生に関与する基礎的な免疫動態を明らかにするために、自己免疫疾患モデルマウスとしてB6/lprマウス(FAS遺伝子の突然変異マウスで、末梢で自己反応性のリンパ球にアポトーシスが生じず全身性エリテマトーデス様の症状を示す)を、コントロールとしてC57/BL6マウスを用い、発がん性物質であるAOM (Azoxymethane)の腹腔内への投与及び特異的腸炎誘発剤であるDSS (Dextran sodium sulfate)の自由飲水投与を行うことで大腸癌を発症するモデルの化学発がん実験を行なった結果、コントロールマウスと自己免疫疾患モデルマウスのいずれも大腸に腺腫の発生を認めたが、自己免疫疾患モデルマウスにのみ粘膜筋板を超え粘膜固有層に浸潤する癌胞巣を認める明らかな浸潤癌の発生を組織学的に昨年度までに確認した。また、腫瘍発生個数には摂取後同一週で比較した時に、自己免疫疾患マウスの方が多い傾向にあるものの有意な差は認めなかった。 免疫学的な原因の探求のため、AOM投与後に、腫瘍免疫を抑制性に制御する制御性T細胞と制御性B細胞の末梢血中での割合をフローサイトメーターを用いて解析した。その結果、AOM投与後3週で自己免疫疾患モデルマウスでは、制御性T細胞の割合は発がん性物質非投与群に比べ投与群で有意に増加していた。一方でコントロールマウスでは変化が見られなかった。これらより、発癌過程において自己免疫疾患状態では、制御性T細胞による腫瘍免疫の抑制が亢進している可能性が考えられた。
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