自己免疫状態が腫瘍発生に関与する基礎的な免疫動態を明らかにするために、自己免疫疾患モデルマウスとしてB6/lprマウス(FAS遺伝子の突然変異マウスで末梢で自己反応性のリンパ球にアポトーシスが生じず全身性エリテマトーデス様の症状を示す)を、コントロールとしてC57/BL6マウスを用い、発がん性物質であるAOM (Azoxymethane)の腹腔内への投与及び特異的腸炎誘発剤であるDSS (Dextran sodium sulfate)の自由飲水投与を行うことで大腸癌を発症するモデルの化学発がん実験を行なった結果、コントロールマウスと自己免疫疾患モデルマウスのいずれも大腸に腫瘍の発生を認めたが、AOM投与後22週では自己免疫疾患モデルマウスでは対照群に比較し有意に腫瘍数と腫瘍重量が高値を示した。さらに自己免疫疾患モデルマウスにのみ粘膜筋板を超え粘膜固有層に浸潤する癌胞巣を認めた。 免疫学的な原因の探求のため、腫瘍発生過程での末梢血及び腫瘍組織についてのフローサイトメトリー解析を行った。その結果、AOM投与後16週の末梢血において自己免疫疾患モデルマウスでは対照群に比較し有意にPD-1陽性T細胞の割合とT細胞のPD-1発現量(蛍光強度)が増加していた。また、AOM投与前と比較し16週では自己免疫疾患モデルマウスでは有意にPD-1陽性T細胞の割合とT細胞のPD-1発現量(蛍光強度)が増加していた。AOM投与後22週の腫瘍組織中には、有意にT細胞のPD-1発現量(蛍光強度)が増加していた。また、腫瘍組織には免疫組織染色でPD-L1発現細胞が間質に存在することを確認した。以上から自己免疫疾患モデルマウスでは免疫チェックポイント分子PD-1の発現がT細胞において亢進することで腫瘍免疫が抑制されていると考えられた。
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