研究課題/領域番号 |
20K18489
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
平島 寛司 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (50824661)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / オルガノイド / リプログラミング / 口腔扁平上皮癌 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は口腔扁平上皮がん(OSCC)を対象に、がん治療の最大の障壁となる転移・再発の元凶とされるがん幹細胞(CSC)の特性解析を目指している。がん細胞に対して山中因子を導入することで未分化な状態に巻き戻すリプログラミング法を用いてCSCをいわば人工的に作り出し、その細胞から得られた情報をもとに、実在のCSCの性質を予測するものである。 昨年度はリプログラミングOSCC細胞4株(歯肉がんCa9-22株, 舌がんHSC-3-M3株・HSC-3株, 口底がんKON株)について、MACS(磁気細胞分離法)でTra-1-60陽性細胞を選別して培養した。その結果、7週間以上にわたって各種未分化マーカーやがん幹細胞マーカーの発現を維持したままコロニー状構造を維持できることが明らかになった。本年度はTra-1-60陽性リプログラミングOSCC細胞の薬剤耐性能の評価と、この細胞を出発点にin vitroでの腫瘍組織評価系の構築に向け、オルガノイド形成を目指す三次元培養手法の確立を行った。 まず、抗悪性腫瘍薬である5-フルオロウラシル(5-FU)に対するTra-1-60陽性リプログラミングOSCC細胞の薬剤耐性を検討したところ、4株ともリプログラミング後3継代目までは元株よりも5-FU耐性が低かった。5継代目以降は4株とも5-FU耐性が生じ、元株よりも有意にリプログラミングOSCC細胞株の生存率が高かった(50 μg/ml 5-FU, 48時間処理, p<0.05)。一方でTra-1-60陽性細胞のソーティングから2週間以上経過したリプログラミングOSCC細胞の生存率は元株と同様であった。 次にオルガノイド形成に向け、マトリゲルを用いた三次元培養法の条件検討を行った。リプログラミングOSCC細胞はオルガノイド形成用培地を用いたマトリゲル中で細胞集塊を形成し、元株を用いた場合も細胞集塊が形成された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はリプログラミングしたOSCC細胞4株(歯肉がんCa9-22株, 舌がんHSC-3-M3株・HSC-3株, 口底がんKON株)由来のTra-1-60陽性細胞の特性評価と、in vitroでの腫瘍組織評価系の構築に向け、オルガノイド形成を目指す三次元培養手法の確立を行った。 固形がんの遠隔転移に関与するとされるCD44に関する検討も行った。CD44のバリアント(CD44v)の一つであるCD44v9の発現は、HSC3M3株・HSC3株ではTra-1-60陽性細胞が元株よりも高値を示したが、KON株・Ca9-22株ではこの傾向は認めなかった。またCD44vの発現を制御するESRP1の発現も同様に、HSC3M3株・HSC3株ではTra-1-60陽性細胞が元株よりも高値を示したが、KON株・Ca9-22株ではこの傾向は認めなかった。 次にTra-1-60陽性リプログラミングOSCC細胞の薬剤耐性を検討した。5継代目以降は4株とも5-FU耐性が生じたが、ソーティングから2週間以上経過したリプログラミングOSCC細胞の5-FU耐性はリプログラミング前と同レベルにまで大きく低下した。 マトリゲルを用いた三次元培養法の条件検討を行ったところ、リプログラミングOSCC細胞はオルガノイド形成用培地を用いたマトリゲル中で細胞集塊を形成し、元株を用いた場合においても同様の細胞集塊が形成された。この細胞集塊を実際の腫瘍組織と近似させ、リプログラミングによって作成した人工がん幹細胞を出発点に口腔がんオルガノイドを作製し、in vitroでの腫瘍組織モデルを構築する計画である。 以上の経過より、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、各種がん幹細胞・未分化マーカーを発現する4種類のリプログラミングOSCC細胞よりTra-1-60陽性細胞を単離して継続培養を行い、この細胞集団が5-FUに対する強い薬剤耐性を持つことを明らかにした。 また、この細胞集団をマトリゲルで包埋してオルガノイド形成用培地を用いて三次元培養を行った。さらにリプログラミングOSCC細胞の三次元培養を行い、得られた細胞集塊の組織学的・分子生物学的評価と行うことで、人工がん幹細胞由来の口腔がんオルガノイドを形成するために必要な分化誘導法の策定中である。 今後はリプログラミングTra-1-60陽性細胞に高度な薬剤耐性をもたらす機序を明らかにした後、リプログラミングOSCC細胞の免疫不全動物への移植による腫瘍形成能の評価、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析、主成分分析へと進む予定である。
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