研究実績の概要 |
本研究は口腔扁平上皮がん(OSCC)を対象に、がん治療を一層困難なものとする転移・再発の原因とされるがん幹細胞(CSC)の特性解析を目指している。がん細胞に山中因子を導入し、未分化な状態に巻き戻すリプログラミング法を用いてCSCをいわば人工的に作り出し、その細胞から得られた情報をもとに実在のCSCの性質を予測するものである。 これまでにリプログラミングOSCC細胞4株(歯肉がんCa9-22株, 舌がんHSC-3-M3株・HSC-3株, 口底がんKON株)をもとに、MACS(磁気細胞分離法)を用いてTra-1-60陽性細胞を選別して培養し、7週間以上にわたって各種未分化/がん幹細胞マーカーの発現を維持したままコロニー状構造を維持できることを明らかにした。また、Tra-1-60陽性リプログラミングOSCC細胞によるin vitroでの腫瘍組織評価系の構築に向けた三次元培養手法の検討を行い、マトリゲル中でのオルガノイド様の細胞集塊の形成に成功した。 これらを踏まえ、Tra-1-60陽性リプログラミングOSCC細胞の抗悪性腫瘍薬である5-フルオロウラシル(5-FU)に対する薬剤耐性を検討した結果、4種類ともリプログラミング後5継代目以降に5-FU耐性が生じ、元株より有意にリプログラミングOSCC細胞株の生存率が高かった(50μg/ml 5-FU, 48時間処理, p<0.05)。一方でTra-1-60陽性細胞のソーティングから2週間以上経過したリプログラミングOSCC細胞の生存率は元株と同レベルまで低下した。 免疫不全動物への細胞移植やマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析など、リプログラミングOSCC細胞の解析は途上であるが、抗アポトーシス分子や薬剤排出トランスポーター分子の発現変化など薬剤耐性獲得機序を解明することでOSCC幹細胞の特性と有用な治療標的分子の解明に繋げる予定である。
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