舌がんの一部は喫煙歴がなくヒトパピローマウイルス非感染の若年者に発症し、他の頭頸部がんとは異なる特有な生物学的特徴をもつ集団である可能性が示唆されている。これまでの若年発症舌がんを対象にしたゲノム解析では、非若年舌がんと概ね同様の遺伝学的背景をもつことが報告されている。その一方で、若年発症舌がんの再発に関連する遺伝子異常についてはこれまで明らかとなっていない。 我々は40歳未満で発症した舌がん107例を抽出し、40歳以上の非若年症例251例と臨床的特徴の比較を行った。既往歴、家族歴、嗜好歴、予後に関する臨床情報の収集を行った。若年発症群においては、第1度近親者のがん家族歴、ならびに1日20本以上の喫煙歴を有する患者の割合が、非若年発症群に比較し有意に低率であった。106例が治癒的切除を受け、そのうち33例(31%)が再発をきたした(局所再発:25例、遠隔再発:8例)。 次に再発をきたした症例のうち16症例に関して初発時・再発時の腫瘍組織、ならびに正常コントロールとして手術時のリンパ節組織のホルマリン固定パラフィン包埋標本からDNA抽出を行い、ライブラリー作成を行った。全エクソーム解析はNovaSeq 6000 systemを用いて行った。16例のうち13例においては、初発、再発のいずれかの標本でTP53、CDKN2Aを始めとした10種のドライバー遺伝子における異常が同定された。7例においては、初発、再発腫瘍でTP53を含めて同一の遺伝子変異が検出された。その一方で、8例においてはCDKN2A 以外の9遺伝子に関して、初発時に認めていた変異の消失、もしくは再発時に新たな変異の獲得を認めた。本研究は、若年者発症舌がんにおいて、クローンの変化が再発に関連して一定の頻度で起こる可能性を示した。将来的な再発メカニズムの全体像を明らかにする上で、重要な知見となると考えられる。
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