研究課題/領域番号 |
20K18492
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
平山 悟 新潟大学, 医歯学系, 助教 (70778555)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Porphyromonas gingivalis / メンブレンベシクル / アルツハイマー病 / 血液脳関門 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病は認知症の原因として最も高い割合を占め、認知障害を特徴とする疾患であるが、その発症に歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisの感染が関与する可能性が示唆されている。細菌が放出するメンブレンベシクルは、種々の細胞構成要素や病原因子を含有しており、それらを宿主へ伝達する機能がある。本研究は、歯周病原細菌P. gingivalisのメンブレンベシクルがアルツハイマー病を発症させる原因なのではないかという仮説に対して、血液脳関門モデルを用いたin vitro実験、マウスを用いたin vivo実験の双方のアプローチにより取組む。得られた成果を通じて、メンブレンベシクルが血液脳関門を通過して脳に影響を及ぼすかどうかを明らかにすることを目的としている。 まず、P. gingivalisのメンブレンベシクルの調製を行った。P. gingivalisの培養上清をフィルトレーション後、超遠心分離することにより、メンブレンベシクル画分を回収した。メンブレンベシクル画分は、Bradford法によるタンパク質定量、および走査型電子顕微鏡による観察を行い、メンブレンベシクルが調製できていることを確認した。これまでの検討で、培養条件を一定にすることにより、一定の量と質のメンブレンベシクル調製を確立することができた。 一方、メンブレンベシクルを用いた研究を効率的に進行させるため、メンブレンベシクル産生量が増大する培養条件を検討した。細菌のメンブレンベシクル産生モデルとして大腸菌を用い、培養時にグリシンを添加することで、顕著なメンブレンベシクル産生量の増大が認められた。本実験のプロトコルについて、Methods in Molecular Biologyに執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、物品の流通や実験の遂行が制限されたため、研究の進捗に遅延が生じている。しかしながら、P. gingivalisのメンブレンベシクル調製を行うことができたため、今後はメンブレンベシクルがマウスやヒトの脳細胞に及ぼす影響、メンブレンベシクルが血液脳関門を通過するかどうか、さらにメンブレンベシクルの接種がマウスにどのような影響を及ぼすのかについて、順次検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
P. gingivalisの培養上清からメンブレンベシクル画分を回収し、走査型電子顕微鏡観察により、メンブレンベシクルが調製できていることが確認できた。今後はまず、調製したメンブレンベシクルを活用し、マウスやヒトの脳細胞に対してどのような影響を及ぼすのかをin vitro試験で検討する。具体的には、マウスやヒトの培養細胞株を用いて、メンブレンベシクルが細胞毒性を示すのかをcytotoxicity assayにより明らかにする。また、炎症性サイトカインの発現等、細胞に及ぼす影響についてリアルタイムPCRやELISAにより評価する。 次に、メンブレンベシクルが血液脳関門を通過するかどうかを、血液脳関門モデル細胞を用いたin vitro試験や、マウスを用いたin vivo試験によって検討する。 さらに、P. gingivalisのメンブレンベシクルがマウスにどのような影響を及ぼすのかをin vivo試験から検討する。脳組織に及ぼす影響について、サイトカイン発現をリアルタイムPCRやELISAによって評価するとともに、脳内のアミロイドβの蓄積量をELISAによって評価する。加えて、マウスへのメンブレンベシクル接種により、マウスの認知機能に影響が及ぼされるかどうかを評価する。これには、マウスの記憶・学習を評価するための簡便かつ効率的なアッセイであるnovel object recognition testを活用する。 これらの検討から、歯周病原細菌P. gingivalisのメンブレンベシクルがアルツハイマー病の発症に関与するメカニズムの理解促進に寄与したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、物品の流通や実験の遂行が制限され、年度末納品等にかかる支払いが令和3年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
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