アルツハイマー病の発症に歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisの感染が関与する可能性が示唆されている。細菌が放出するメンブレンベシクルは、種々の細胞構成要素や病原因子を含有しており、それらを宿主へ伝達する機能がある。本研究では、P. gingivalisのメンブレンベシクルがアルツハイマー病を発症させる原因となるのではないかという仮説のもと、メンブレンベシクルが血液脳関門を通過して脳に影響を及ぼすかどうかを明らかにすることを目的としている。前年度の研究から、一定の量と質のP. gingivalisメンブレンベシクル調製を確立することができた。血液脳関門モデルを用いたin vitro実験により、メンブレンベシクルが血液脳関門を通過するかどうかを検討中である。 一方、メンブレンベシクルを用いた研究を効率的に進行させるため、メンブレンベシクル産生量が増大する培養条件を検討した。細菌のメンブレンベシクル産生モデルとして大腸菌を用い、培養時にグリシンを添加することで、顕著なメンブレンベシクル産生量の増大が認められた。グリシン誘導ベシクルは、非誘導ベシクルに比較してサイズ (粒径) の増大が認められるとともに、タンパク質の組成に変化が生じており、細胞質及び内膜タンパク質の割合が増大していることが示された。加えて、非誘導ベシクルに比較して、グリシン誘導ベシクルではタンパク質量あたりのエンドトキシン活性がおよそ8分の1に減少していることが明らかになった。それにもかかわらず、グリシン誘導・非誘導ベシクルともに、マウスマクロファージ様細胞やマウスに対する免疫誘導活性やアジュバント活性を同等に有することが示された。本実験のプロトコルの詳細をMethods in Molecular Biologyに執筆し、上梓した。
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