歯髄炎は主にう蝕に継発して発症するが、う蝕に継発しない歯髄炎も存在する。咬合性外傷、矯正治療、バーといった歯科用機材による切削の後に発症する歯髄炎は、細菌感染ではなく物理的侵襲が原因と考えられているがその発症メカニズムはいまだ不明である。そこで、非細菌性侵襲による歯髄炎の発症メカニズムを探求する目的で、high mobility group box 1(HMGB1)とネクロプトーシスの関連について歯髄細胞を用いて観察した。ネクロプトーシスはアポトーシス、ネクローシスとは異なる制御された壊死であり、その際HMGB1の放出が誘導される。昨年度までに株化マウス歯髄細胞 (mouse dental papillae cells: MDPs)を37℃、52℃、75℃にて10分処理した細胞及び培養上清のHMGB1のタンパク質発現をwestern blottingにて確認した。52℃で処理した細胞上清を添加後24時間後のMDPsにおいて37℃で処理した細胞上清を添加したものと比較してリン酸化p65の発現の増加を認めた。 また各温度で処理した細胞上清を添加後HMGB1の放出量をELISAにて測定したところ52℃で処理した細胞上清を添加後24時間でHMGB1の放出量が増加した。今年度はヒト歯髄細胞を用いて同様の結果を得られた。以上より、歯髄組織が一時的であっても高熱にさらされると、HMGB1産生が誘導され、産生されたHMGB1がさらにHMGB1の放出を促し、NFkBのリン酸化を介して炎症性メディエーター産生を誘導している可能性が示唆された。
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