研究実績の概要 |
オーラルバイオフィルムはう蝕や歯周病に関与しており,全身への影響も報告されている.その制御・抑制法を解明することは,口腔及び全身の健康を維持するために極めて重要である.近年,腸内細菌に対するプレバイオティクスの概念を,口腔内にも応用できないかと考えられているひとつに,唾液の成分のアルギニンがある.申請者らが考案したin situバイオフィルムモデルを用いて,アルギニンの効果判定を行ったところ,口腔内のアンモニウムイオン(NH4+)濃度を上昇させることで,口腔内生菌数には影響を与えず,口腔内細菌叢を変化させることを明らかにした.また,フッ化物は,そのう蝕予防効果が認められているため,アルギニンとフッ化物を併用した場合,口腔内細菌叢への相乗効果が生じるのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,申請者らが考案したin situバイオフィルムモデルを用いて,メタゲノム解析によりアルギニンとフッ化物の併用効果を多面的に評価し,その相乗効果の判定を行う.また,そのメカニズムを解明することで,ヒトのデンタルバイオフィルム制御を目的とした新規アルギニン製剤の創出を目指している. 本年度は被験者3人に対し,8%アルギニンおよびフッ化物配合歯磨剤を4週間使用する前と後での口腔内生菌数およびNH4+の変化を比較検討した.その結果,生菌数には変化は認められなかったが,口腔内のNH4+の増加が認められた.これより,8%アルギニンおよびフッ化物含有歯磨剤を使用すると,口腔内のNH4+を上昇させることによって,口腔内生菌数には影響を与えず,口腔内細菌叢のみを変化させる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,ヒトのデンタルバイオフィルム制御を目的とした新規アルギニン製剤の創出を目指している.現段階で,申請者らが新たに開発したin situバイオフィルムモデルを用いて,デンタルバイオフィルムへのアルギニンの効果を経時的かつ定量的に検索する方法を確立することで,8%アルギニン溶液による口腔内細菌叢への影響を明らかとし,その成果を報告した(Nanako K et al. Pharmacy (Basel). 2021 Jan 12;9(1):18. ).また,8%アルギニンおよびフッ化物配合歯磨剤を使用する前と後での口腔内生菌数およびNH4+への影響を検索した. 今後としては,NGSを用いた多面的な解析を行い,アルギニンとフッ化物の併用効果の判定を行っていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,NGSを含めた多面的な解析を行い,アルギニンとフッ化物の併用効果を定量的・網羅的に検索し,病原性抑制に対する効果判定を行う必要があると考えられる.下の評価を行い,アルギニン単体の効果と比較検討する. ・共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)によるバイオフィルムの3次元的定量観察;ディスク上のバイオフィルムをCLSMにて観察し,その体積や厚みに対する効果を測定し,3次元的に定量評価する.また,バイオフィルム内の局所のpHをCLSMにて測定し,バイオフィルム内のpHへの影響を3次元的に定量評価する. ・メタゲノム解析によるバイオフィルム細菌叢の同定および機能解析;ディスク上のバイオフィルムを回収し,DNAを抽出後,NGSを用いて,バイオフィルムを構成する細菌を同定し,細菌叢への影響を評価する.さらに機能解析を行うことで,病原因子および代謝産物への影響を評価する. 以上のように,アルギニンおよびフッ化物のデンタルバイオフィルムへの効果を多面的に評価し,その相乗効果の判定を行う.また,そのメカニズムを解明することで,アルギニンおよびフッ化物を添加した新規抗バイオフィルム製剤の創出を目指している.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍により成果発表を行う旅費が不要であった.また,NGSを用いた解析の中で,バイオフィルムの機能解析による、病原因子および代謝産物への影響を評価する方法の比較を行い、その方法の確立を行っていた.そのため,次年度にその方法を用いて,アルギニンとフッ化物の併用効果の判定を行うため,DNA抽出キットおよび次世代シーケンス解析等の物品費に約120万の支払いを行う予定であり、その人件費および成果発表費のため,約30万の支払いを行う予定である.
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