本研究の目的は、根尖性および辺縁性歯周炎に対する新規の創薬・治療戦略の創成を念頭に、Porphyromonas gingivalisがインターフェロンシグナルを制御する機構について多角的な検討を行うことである。本年度はまず、P. gingivalis感染した活性化マクロファージの網羅的遺伝子発現解析と、インターフェロンシグナルの抑制に関わる細菌コンパートメントの同定、そしてP. gingivalisと他種細菌との混合感染による相互作用についての検討を行った。インターフェロンで刺激したマクロファージにP. gingivalisを感染させRNAシークエンス解析を行ったところ、P. gingivalisはインターフェロンによって発現が誘導される多くの遺伝子の発現を制御しており、マクロファージの活性化を阻害することが示唆された。さらにリアルタイム定量PCRにて検討を加えたところ、P. gingivalis感染はインターフェロンシグナルに極めて重要な転写因子であるSTAT1の発現をmRNAレベルで強く阻害していることが明らかとなった。また、P. gingivalisによるSTAT1の発現抑制を指標としてトランスウェルを利用した非接触共培養法を用いて検討を行い、STAT1の発現抑制が細菌-宿主細胞間の直接接触を必要とすることを確認した。さらに、マクロファージをP. gingivalisと他の口腔内細菌とを同時に刺激した場合のSTAT1の発現についてもリアルタイム定量PCRを用いて検討したところ、他の歯周病原性細菌であるFusobacterium nucleatumやPrevotella intermediaの感染ではSTAT1の発現抑制が認められなかったものの、両細菌をP. gingivalisと共感染させた場合にはSTAT1の発現の有意な阻害効果が認められた。
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