超高齢社会を迎える我が国において、8020運動達成率が50%を超える一方で、炎症性骨破壊疾患である歯周炎の罹患率が上昇している。 本研究は、申請者が研究中の真菌由来低分子化合物terreinの破骨細胞分化抑制に着目し、terreinの炎症性骨破壊疾患への応用を目的としている。低分子化合物tererinが破骨細胞マスター転写因子であるNFATc1を抑制し、既存の炎症性骨疾患治療薬の作用機序と異なる作用機序での骨吸収抑制の可能性を示した。これまでに、terreinが炎症性骨破壊病変周囲に及ぼす影響の検討を行い、卵巣摘出骨粗鬆症モデルマウスにおけるterreinの大腿骨抑制効果を示した。また、歯周炎マウスモデルにおける歯槽骨抑制効果を示した。 今回の研究において、作用機序の解明を進めたところ、terreinがRANKLシグナル経路におけるカテプシンKやTrapと言った破骨細胞形成因子を抑制することを示した。さらにOCstampやDCstampといった破骨細胞を特徴づける遺伝子発現を抑制することを示した。一方で、RANKの抑制効果はないことを確認した。また、NF-κBおよびMAPKsのリン酸化を抑制しなかった。また、シグナル経路中に位置するPKCα/βのリン酸化を抑制した。 以上のことから、terreinのNFATc1活性経路への直接介入または別のRANKLシグナル伝達カスケードからの介入の可能性が示唆された。 以上の結果やこれまでに報告したヒト歯肉線維芽細胞におけるIL-6の抗炎症効果、マウス骨髄由来マクロファージ様細胞における炎症性サイトカインTNF-αへの骨吸収抑制効果を踏まえると、terreinの新規炎症性骨吸収治療薬としての可能性を示唆すると考える。
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