本研究では,主要な歯周病原細菌の一種であるTreponema denticola の酸化ストレス応答に関与する可能性のある, 機能未知遺伝子の機能解析を行った。T. denticola は偏性嫌気性菌であり,酸化ストレス応答は本菌の生存・増殖に必須の機能と考えられるが,本菌の酸化ストレス応答機構は明らかにされていない。そこで我々は,酸素暴露時の本菌のトランスクリプトームを解析し,その中から有意な発現変動を認めた遺伝子を抽出,アノテーション情報に基づきTDE_0259とTDE_0260に着目した。TDE_0259はMarR 様転写調節因子を,TDE_0260はiron-sulfur cluster-binding protein 様のモチーフを持ち,これら2つの遺伝子は,他菌種で酸化ストレス応答に関与することが報告されているタンパク質をコードする可能性がある。 このうち,我々はまず,遺伝子欠損株の存在しないTDE_0260の欠損株を,ヒートショック法による遺伝子導入と相同組み換えにて作出した。このTDE_0260欠損株のトランスクリプトームを,RNA-seq にて解析したところ,本菌の酸化ストレスおよび抗菌薬耐性に関わる遺伝子の発現変動が認められた。 以上より,本遺伝子は,T. denticola のストレス応答等に,種々の遺伝子との相互作用を介し関与していることが示唆された。今後,欠損株の表現型についても解析を行う予定である。
|