歯髄の保存により、歯の生来の機能が維持されるとともに歯の物性低下が回避され、歯の残存期間の飛躍的延長が期待される。従って、炎症歯髄に対して組織破壊と修復のバランスを回復させ歯髄の保存を図る新規治療戦略の創出は、重要な意義を有すると考えられる。 本研究では、いくつかのmiRNAを介した調節機序が、歯髄炎における治癒・修復プロセスで演じる役割を解明した。さらに、炎症及び修復に関与するmiRNAを内包するエクソソームを利用し、歯髄保存に寄与するための新たな覆髄剤の開発などの臨床応用を検討した。 これまで、炎症は組織破壊にのみ加担すると考えられてきたが、近年では治癒機転のトリガーともなっていることも判明している。したがって、治癒機転を誘導する因子をスクリーニングし、その因子を有効に利用することで、効率的な治癒を誘導することが可能であると考えられる。 ところが、歯髄炎において炎症と組織修復のクロストークの視点からエクソソームの放出動態や内包されるmiRNAを介した調節機序を解析した報告は未だ行われておらず、さらに、エクソソームを利用した覆髄剤の開発は生体が生来備える組織修復機構を応用した生体為害性の低い治療法としての有用性が期待される。 本研究では、炎症時に産生されるmiR-21やmiR-146b、miR-27aが炎症抑制機能を有し、miR-27aは歯髄の治癒形態の1つである硬組織形成を誘導する機能も有し、それはエクソソームを介していることが示唆された。これらの結果により、歯髄の病態制御、あるいは再生療法の成功率向上を意図した新規治療法の創成につながるものと期待される。
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