本研究の学術的背景は、予てより指摘される糖尿病と歯周病の相互関係性が挙げられる。細菌感染症である歯周炎と、代謝疾患である糖尿病の相互関係については多くの研究がなされており、近年では好中球の機能不全、コラーゲン合成阻害、微小循環障害、線維芽細胞機能不全、最終糖化産物や酸化ストレスによる組織破壊への関与などが報告されているが、未だ詳細は不明である。そこで、本研究の目的は、糖尿病患者における歯科治療時における経口糖尿病治療薬の実効性を明らかにするために糖尿病モデルラットの歯周組織における経口糖尿病治療薬の効果をin vitro、in vivoで示すことである。現在我が国では経口糖尿病治療薬として7系統の薬剤が使用されておりその内ビグアナイド系薬剤は糖代謝に関与するAMPキナーゼを活性化し糖代謝を促進する特徴をもつ。本研究では、糖尿病モデル動物にビグアナイド系糖尿病治療薬であるメトホルミンを経口投与することで高血糖状態を改善し、糖尿病による傷害発現を抑制することによって糖尿病が歯周組織の創傷治癒に与える影響について検討した。糖尿病モデル動物でのin vivo実験においてはメトホルミンを投与することによって、空腹時血糖の値の上昇が抑制されることが示され、また耐糖能異常やインスリン抵抗性が改善することが示唆された。In vitro実験においては、メトホルミンの濃度や期間によって細胞の活性がどのように変化するのか、また細胞の種類によって効果発現が異なる機序については今後さらに検討する必要がある。
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