研究課題/領域番号 |
20K18532
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 友美 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (00807589)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 歯根膜細胞 / 歯周病 / 老化 / 損傷ミトコンドリア / マイトファジー |
研究実績の概要 |
歯周病は慢性炎症性疾患であり、そのリスク因子の一つに酸化ストレスが考えられている。高齢患者の歯周組織においては、口腔内細菌やメカニカルストレスなどの環境ストレスに対する適応能力が減少する一方で、酸化ストレスの増大が報告されている。 弾性結合組織を構成する歯根膜細胞は、コラーゲンなどの細胞外基質タンパクを大量に産生する必要がある。そのため、エネルギーATP産生の中心であるミトコンドリアの恒常性維持は極めて重要であり、その機能異常は活性酸素種(ROS)の過剰産生につながる。機能低下したミトコンドリアは、ミトコンドリア間で融合することで機能を回復するとともに、修復不可能なミトコンドリアを分裂により切り離すことで恒常性を維持している。 オートファジーは外的ストレス刺激時に作動することが明らかとされており、ミトコンドリア選択的なオートファジー(マイトファジー)の機能低下が、歯周組織におけるROSの過剰産生に関与していることが申請者らの研究により明らかになっている。また、老化細胞ではオートファジー活性およびエネルギー代謝能の低下が報告されている。 本研究課題では、老化歯根膜細胞を用いてミトコンドリアの融合・分裂の分子機構に着目することで、歯根膜マイトファジーの引き金となる、歯周組織に特異的な「損傷ミトコンドリアの標識機構」の解析に取り組んだ。歯周組織特異的なマイトファジーを解析することで、ミトコンドリアの機能維持とROS制御に基づく、新規の歯周病予防・治療法開発のための分子基盤の構築をめざした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始初年度の2020年度は、初代ヒト歯根膜細胞のin vitro複製老化の誘導により、老化HPDLを得た。Tom22とmitotrackerを用いたイメージング解析により、細胞老化が促進した老化ヒト歯根膜細胞においては、断裂ミトコンドリアが細胞核から離れて分布していることを明らかとした。透過型電子顕微鏡解析により、多くのミトコンドリアにおいてクリステ構造の異常が観察されるとともに、JC-1標識によりミトコドリア膜が脱分極した損傷ミトコンドリアの増加が確認された。これらに一致して、マイトファジーと基底状態のマクロオートファジーの低下が、蛍光プローブを用いたイメージング解析により明らかとなった。その際に、損傷ミトコンドリアの標識に関係するPARK2、PINK1ならびに、隔離膜の受容体に結合するミトコンドリア膜上のFUNDC1、NIXの発現の低下が観察された。 以上の結果より、環境ストレスが増大した老化ヒト歯根膜細胞においては、ミトコンドリアの標識システムとオートファジーによるクリアランスの異常が、損傷ミトコンドリアの蓄積の要因の一つであることが示唆された。 2020年度は、COVID-19感染拡大防止の観点から、研究施設のある大阪大学において活動制限がなされた。その結果、当初の研究計画を修正して対応したが、一部の研究計画については遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2020年度に樹立した老化ヒト歯根膜細胞(HPDL)の損傷ミトコンドリアの検出系をプラットフォームとして以下の項目について解析にあたる。 1.環境ストレスがHPDLにおける損傷ミトコンドリアの標識化に及ぼす影響の解析 口腔内細菌種やメカニカルストレス、低酸素、浸透圧などの口腔内環境因子が、老化HPDLのオートファゴソームLC3、GABARAPに対するミトコンドリア膜受容体遺伝子群の発現に及ぼす影響について、qPCR法と細胞免疫染色を用いて解析する。さらに標的遺伝子群のsiRNAの導入によりその生理機能を解析する。 2.環境ストレスがHPDLにおけるミトコンドリアの融合・分裂機構に及ぼす影響を明らかにする。種々の口腔内環境因子が、ミトコンドリア融合・分裂因子Drp1の発現に及ぼす影響について、qPCR法と細胞免疫染色を用いて解析する。さらに標的遺伝子群のsiRNAの導入によりその生理機能を解析する。1と2については、透過型電子顕微鏡による形態解析を行い評価する。 3.実際に、損傷ミトコンドリアの標識や膜受容体タンパクの導入が、歯根膜特異的なマイトファジーを賦活し、HPDLのROS代謝、炎症性サイトカイン産生、細胞増殖能、細胞外基質タンパクの産生を回復しうるか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、COVID-19感染拡大防止の観点から、研究施設のある大阪大学において、 「実験・研究の継続に必要最小限の研究関係者のみ立ち入り許可」の活動制限がなされた。その結果、当初の研究計画を修正して対応したが、一部の研究計画については遅れが生じた。よって、2021年度には、2020年度に購入・使用予定であった染色試薬ならびに抗体・プライマーをはじめとする実験試薬や動物を必要物品として購入し、当初予定していた研究を実施、完了する予定である。また、研究成果の発表を予定していた学会が、COVID-19感染拡大防止の観点からオンライン開催となったため、旅費の支出が0となった。2021年度は現地開催の学会に参加し、情報収集並びに研究成果の報告を行うとともに、論文を作成、投稿する予定である。
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