研究課題/領域番号 |
20K18540
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
ジャウディン エスエム 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 客員研究員 (80868141)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 歯石 / 歯周病原細菌 / 上皮 |
研究実績の概要 |
歯周炎患者では歯石沈着により症状が悪化することが知られているが、研究代表者は歯石中のリン酸カルシウム結晶がNLRP3インフラマソームを活性化してマクロファージのIL-1β産生を誘導し、さらに歯肉上皮細胞にピロトーシスと呼ばれるインフラマソーム依存性細胞死を誘導することを明らかとした。歯肉上皮細胞にピロトーシスが誘導されると歯肉溝/歯周ポケットにおける上皮バリアが破壊され、プラーク中の細菌の侵入を許し、歯周組織破壊がさらに進行する。本研究では、歯周ポケット上皮バリア破壊における歯石および歯周病原細菌の役割を明らかにするために、これらを用いて歯肉上皮細胞を刺激し、細胞傷害性試験、細胞シート透過性試験で細胞および細胞シートへの傷害性を比較することとした。また、歯肉上皮細胞に対する歯石および歯周病原細菌の細胞傷害性の特徴および細胞死誘導メカニズムについて、マクロファージをコントロールとして解析することとした。 これまでに、口腔上皮癌由来HSC-2細胞を、歯石と歯石中の結晶成分である合成ハイドキシアパタイト(HA)、歯周病原細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatumの凍結乾燥菌体に暴露し、細胞傷害性を乳酸脱水素酵素(LDH)放出試験で測定したところ、歯石およびHA結晶は凍結乾燥A. actinomycetemcomitans、F. nucleatumよりも強い細胞傷害性を示すことが明らかとなった。 さらに、HSC-2細胞の細胞シートに歯石およびHA結晶、凍結乾燥歯周病原細菌を添加して色素透過性試験を行ったところ、歯石およびHA結晶添加した場合のみ透過性が亢進し、上皮バリア破壊に関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、口腔上皮癌由来HSC-2細胞およびPMAでマクロファージ様細胞に分化させたTHP-1細胞を、歯周病患者から採取した歯石を粉砕した歯石粒子、歯石中に多く含まれる結晶成分である合成ハイドロキシアパタイト(HA)、歯周病原細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatumの凍結乾燥菌体に暴露し、細胞傷害性を細胞内からの乳酸脱水素酵素(LDH)放出試験で測定した。その結果、HSC-2細胞においては歯石およびHA結晶に凍結乾燥A. actinomycetemcomitans、F. nucleatumよりも有意に強い細胞傷害性が認められた。一方、THP-1マクロファージにおいては、歯石およびHA結晶よりも凍結乾燥A. actinomycetemcomitans、F. nucleatumに強い細胞傷害性が認められた。 さらに、HSC-2細胞をメンブレンフィルター上にコンフルエントになるまで単層培養し、この細胞シート上に歯石およびHA結晶、凍結乾燥歯周病原細菌を添加し、色素による透過性試験を行った。細胞シートの透過性は歯石およびHA結晶添加により亢進したが、凍結乾燥歯周病原細菌添加では亢進しなかった。また、HSC-2細胞を歯石やHA結晶に暴露した場合は、NLRP3インフラマソーム阻害剤によって細胞傷害が抑制されるのに対し、凍結乾燥歯周病原に暴露した場合にはNLRP3インフラマソーム阻害剤によって細胞傷害が抑制されず、歯石やHA結晶に暴露した場合のみピロトーシスと呼ばれる細胞死が誘導されることが明らかとなった。 これらの結果から、歯石結晶と歯周病原細菌の歯肉上皮およびマクロファージにおける異なる細胞傷害性が明らかとなり、研究は概ね予定通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、歯肉上皮細胞HSC-2をHA結晶と歯周病原細菌に暴露し、細胞死の誘導されるメカニズムの違いについてさらに詳細に解析する。細胞死には、外傷などによって誘導されるネクローシスとプログラムされた細胞死であるアポトーシス、両者の特徴を合わせ持つピロトーシスやネクロトーシスなどが存在する。歯石やHA結晶はピロトーシスを誘導することが明らかとなったが、歯周病原細菌はどのような細胞死を誘導するか解析する。アポトーシスには、DNAの断片化やAnnexin Vなどの蛋白の活性化を伴うことが知られており、これらを指標としてアポトーシスが誘導されているかどうかを検討する。 また、令和2、3年度には、ヒト口腔上皮癌由来HSC-2細胞を歯肉上皮のモデルとして、PMA処理したTHP-1細胞をマクロファージのモデルとして用いたが、令和4年度は正常口腔上皮細胞およびヒト末梢血から分離した単球を、歯石、HA結晶、歯周病原細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatumの凍結乾燥菌体に暴露して細胞障害性を測定し、正常細胞を用いた場合でもこれまでと同様の結果が得られるかどうか検証する。 さらに、令和4年度では、対数曲線を描いて増殖中の歯周病原細菌A. actinomycetemcomitans、F. nucleatumをHSC-2細胞およびTHP-1マクロファージに暴露し、凍結乾燥菌体を用いた場合と同様の結果が得られるかどうか検証する。 これらの解析から、歯肉上皮細胞の細胞死の誘導メカニズムが明らかとなれば、その細胞死を抑制するための方法の開発にもつながると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2-3年度は、歯石と歯石中に含まれる結晶成分であるハイドキシアパタイト、歯周病原細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatumの凍結乾燥菌体の口腔上皮細胞HSC-2に対する細胞傷害性を比較し、実験は概ね順調に進行した。また、HSC-2細胞の細胞シートを用いて細胞透過性試験を行い、概ね期待通りの結果が得られた。しかしながら、令和2-3年は新型コロナウイルス感染症が拡大しており、必要な試薬の購入にも影響が出た。試薬の生産および海外からの輸送等の遅れのため、予定していた物品の購入費も減少した。また、調査研究のために予定していた国内および国外での学会への参加も、現地開催が中止となり、旅費を使用する必要がなくなった。これらの原因から、次年度使用額が生じた。 令和4年度は、歯石および歯周病原細菌により、どのような細胞死が誘導されるか、上皮細胞およびマクロファージの細胞株を用いて行った実験結果は初代培養細胞でも再現できるか、凍結乾燥菌体を用いておこなった実験結果は生菌を用いた実験でも再現できるかなどの実験を予定しており、そのために必要な実験器具・試薬の購入費が必要となる。また、延期となった学会の旅費にも充てる予定である。
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