研究実績の概要 |
侵襲性歯周炎は10-30歳代の若年期に多くAaの存在比率が多いことを特徴とした急速な骨破壊を伴う歯周炎である。それゆえ, 発覚時には患歯の動揺が著しく抜歯を余儀なくされるケースも多い。侵襲性歯周炎はAYA世代に多く発症するため抜歯後の補綴オプションには可撤性床義歯治療が許容されない場合も多く, また, 固定性ブリッジ治療も隣在歯が動揺している場合には選択しづらい。インプラント治療は慢性歯周炎既往歴を持つ患者に対しては高い成功率を示しており, 侵襲性歯周炎既往歴を持つ患者に対しても有効な治療法として希まれるが, 適切なin vivoモデルの基礎的エビデンスは未確立で, 臨床研究にて介入することも困難な学術的状況である。本研究は侵襲性歯周炎の特徴として家系内に集積する症例が多く存在すること, またいくつかのin vitro研究にて侵襲性歯周炎の主な病原菌の一つであるAggregatibacter actinomycetemcomitans(Aa)が 母子間で垂直伝播をしている報告から「Aaが母から仔へ垂直伝番するのではないか?」との仮説を立て, 母体ラットから仔へAa菌を垂直伝番させることで臨床に限りなく近い侵襲性歯周炎モデルの作製を試みている。現在, 母体ラットの細菌叢をDNAシークエンスによりその構成を解析, Aa菌を投与した際の構成比率の変化を明らかにし, 今後はその仔の細菌叢を解析することで垂直伝番モデルを確立していく。このモデルの臨床的有用性が実証できれば今後の歯周病研究のin vivoモデルのゴールドスタンダードとして世界中で利用され, 歯周病分野全体に波及効果をもたらすと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在は研究はおおむね順調に進展している。はじめに母体ラットの唾液からサンプルを抽出し, DNAシークエンスすることによりラットの口腔内細菌叢を確認。その後, 当初の計画していたAggregatibacter actinomycetemcomitans(Aa)に加え, 歯周病原菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)およびプラーク集積能を持つStreptococcus salivarius(Ss)を培養, 投与することAa単独での垂直伝播およびその組織への影響と3種混合での影響の比較を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は垂直伝播したモデルに対して、上顎左側の第1臼歯(M1)を抜歯後, 抜歯窩が完全に治癒した後にインプラントを通法に従い埋入し, 炎症波及の観察, また辺縁骨吸収量および吸収形態を観察することで, 実験モデルの有用性を検証する予定である。
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