本研究の目的は、細胞が侵入可能なマクロ気孔と、比表面積を増加させるミクロ気孔が二階層に分布した炭酸アパタイト多孔体の作製を行い、多孔体構造が生体反応に与える影響を明らかにすることである。 マクロ気孔分布の制御には、石膏顆粒を硬化・結晶成長させて、顆粒間の隙間をマクロ気孔とする材料設計を行った。結晶成長のための溶媒(水)の量を制御することで、マクロ気孔の連通性を制御することができた。熱処理ならびに溶解析出反応によって、マクロ構造を保持したまま炭酸アパタイトに変換できた。マクロ気孔のサイズは約20~30 μmであり、石膏硬化時に水を除去すると連通気孔率は15から30%に向上していた。一方、ミクロ気孔のサイズや全気孔率は両試料で同じであった。連通気孔率30%の試料は水や細胞を透過する一方、連通気孔率15%の試料は透過できないことがわかった。大腿骨骨欠損モデルに両試料を埋入したところ、連通気孔率30%の試料は、4週で連通気孔の全域に新しい骨が形成され、12週にはほぼ海綿骨に置換されていた。一方、連通気孔率15%の試料は4週で試料の中心部分に骨が形成されておらず、12週後も材料が顕著に残存していた。 ミクロ気孔分布の制御には、石膏多孔体の熱処理温度(600℃、750℃、900℃)の調整が有効であった。熱処理温度を低くすると全気孔率は段階的に上昇(約60%から70%)し、600℃で処理して得られた試料は他の試料に比べ、ミクロ気孔サイズが顕著に低下(約400 nmから200 nm)し、比表面積が増加(約1.6倍)した。これらの試料を大腿骨骨欠損モデルに埋入したところ、600℃で熱処理された試料は4週の時点で高い生体吸収性を示し、12週ではほぼ海綿骨に置換されていた。 本研究により、二階層細孔分布を有する炭酸アパタイト多孔体の作製方法とその多孔体構造が骨再生に与える影響が明らかとなった。
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