研究課題/領域番号 |
20K18579
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
下村 直史 昭和大学, 歯学部, 助教 (00826109)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノインデンテーション / 乳歯 / 永久歯 / エナメル質 / S-PRG / マイクロCT |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、微小領域の精密な測定に適したナノインデンターを用い、S-PRGフィラー作用エナメル質の物性強化とその機構を解明することである。 また、先行研究における歯の物性測定の研究では、永久歯を試料としたものがほとんどである。そこで、本研究では先駆け的に乳歯を試料とすることで、これまで解明されてこなかった乳歯の具備するナノレベルでの物理的特性を明らかにすることも、目的としている。 2020年度は、①試料の収集、②デスクトップ型マイクロCTによる非破壊検査、③試料の調整、④S-PRGフィラー未作用試料のナノインデンテーション試験、を行った。 ナノインデンテーション試験では、ヒト永久歯エナメル質・ヒト乳歯エナメル質を対象とした。エナメル質はレジン包埋後、エナメル小柱に対して直行する方向から切断し、徒手にて研磨した。走査型プローブ顕微鏡で試料表面を観察し、直径0.5マイクロメートルと1.0マイクロメートルの球状圧子を用いてエナメル小柱走行方向より小柱中心へナノインデンテーション試験を行った。試験結果から描出された応力ひずみ曲線を比較すると、両試料の弾性係数はほぼ一致するものの、耐力(ほとんど破壊や変形を起こさない最大の荷重)は乳歯試料で高値を示した。 一般的には、永久歯に比して乳歯が咬耗しやすいことが知られているように、マクロレベルでは乳歯エナメル質は永久歯エナメル質に比して物性が劣ると考えられている。しかし今年度の研究から、ミクロ~ナノレベルにおいては、乳歯エナメル質は永久歯エナメル質に比して高い物性を示すことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に用いる試料を収集するにあたり最も難しい点は、未萌出の歯を試料としなくてはならない点である。これは、萌出後の歯は、口腔内の唾液や日頃使用する歯磨剤の影響等を受け、物性が変化する可能性があるためだ。また、永久歯の未萌出歯の抜歯は親知らずの抜歯などで頻回にあり得るが、乳歯において未萌出歯が抜歯の適応となることは少ない。この点で、未萌出乳歯試料の収集の可否が、今後の研究進捗に大きく関わる。 今年度はCOVID-19感染拡大の影響で緊急事態宣言が発令されたため、附属病院での診療の縮小を余儀なくされ、更に試料の収集に苦慮した。しかしこの予期せぬ状況においても、未萌出の永久歯・乳歯の収集ができ、計画通りS-PRG作用前の物性測定が開始できたことは、これからの研究を進めるにあたり意義深い。
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今後の研究の推進方策 |
継続してS-PRG作用前の物性測定を重ね、十分なデータを揃える。さらに来年度は、試料にS-PRGを作用させ、S-PRG作用歯の物性測定を開始する。本研究で行う物性測定はナノインデンターによる非破壊試験であるため、試料に対する不可逆的な変形を与えない。しかし本研究課題を遂行するにあたり、唯一行う不可逆的な手順がS-PRGの作用であるため、慎重に行う必要がある。 Covid-19感染拡大の影響もあり、学会発表などの機会が減少することが考えられる。しかし、データ整理はもちろんのこと、画像の調整や図表作成なども実験と並行して行い、学会発表や最終的な論文発表に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関しては,今年度は既存の消耗品を用いたため、見込みより少なかった。測定に用いるチップは、非常に微小で精密である。チップ交換に伴い、先端形状の再度のキャリブレーションが必要になるため。可能な限り現在使用しているチップで測定を行う。しかし高価であるが消耗されるものでもあるため、今後の研究期間において購入の必要性が出る可能性がある。チップは1つ500,000円程のため、万が一に備えて研究費の使用を抑える必要がある。マイクロCTのデータや、ナノインデンテーションのデータは容量が大きく膨大であり、現在使用しているコンピューターやハードディスクでは限界があるため、来年度の研究に向けて購入に充てる予定である。 旅費は、COVID-19感染拡大により研究成果を発表するための学会が中止されたため、かからなかった。 以上から次年度使用額が生じた。Covid-19にかかわる諸事は、現時点では収束の見通しが立っていないので、補助事業期間延長も視野に入れる。
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