本研究はメカニカルストレスとして低出力超音波(Low-intensity pulsed ultrasound; LIPUS)を用い、一定時間(20分間)かつ継続的(14日間)な刺激を骨芽細胞であるMC3T3-E1細胞に与え、本LIPUS刺激が良好な骨質を有する骨組織を生成するかを学術的かつ細胞生物学的に解明する事を目的とし、本研究を企図した。 過去の研究報告では、LIPUS刺激は骨組織中のColI・BSP・OPNおよびOCNなどの複数の細胞外マトリックスタンパク(ECMP)の遺伝子およびタンパク発現を有意に認めた。また、ATP関連受容体のP2X7受容体のアンタゴニストおよびノックダウン細胞を用いた実験レベルでも、同様の有意な結果を認めた。以上より、低出力超音波による骨組織への刺激は歯周治療に有効性が認められる事を示唆した。 そして、歯周病に罹患した歯槽骨を想定し、MC3T3-E1細胞に歯周病原細菌由来のLPSを添加した実験レベルでは、炎症性サイトカインであるIL-1α・IL-6および破骨細胞分化促進因子であるRANKLの発現に及ぼすLIPUSの影響を調べた。その結果、LIPUS刺激はLPS添加によって有意に増加したそれらの遺伝子およびタンパク発現を無刺激群の発現レベルまで抑制した。さらに、LIPUS刺激がこれらの炎症性サイトカインを抑制する分子メカニズムを検索し、LIPUSは骨芽細胞のAT1-PLCβを介し、LPS誘導性のNF-κBの核内移行を減少させる事で、IL-1α産生を抑制する可能性を示唆した。これらの知見から、LIPUSが歯周病罹患局所における炎症を鎮静化し、歯槽骨吸収を抑制する可能性を示唆した。 以上より、低出力超音波は骨折治療だけではなく、歯科領域においても歯周病で喪失した歯槽骨の再生と歯周病による歯槽骨の炎症を緩和させる事に有用である可能性がある。
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