| 研究課題/領域番号 |
20K18583
|
|---|
| 研究機関 | 神奈川歯科大学 |
|---|
研究代表者 |
藤岡 隼 神奈川歯科大学, 歯学部, 特任講師 (70849356)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
| キーワード | 赤外自由電子レーザー / 有機-無機ハイブリッド材料 / レーザー加工 / HAZ |
|---|
| 研究実績の概要 |
金属材料に代わり，有機材料の多様化が促進されており，レーザー加工は有用な加工法の一つである．しかし，加工に用いられるレーザーの光源は紫外・可視領域に限定されていると言っても過言ではない．可視・紫外領域に分子の光吸収を有さない材料においてはこれら既存のレーザーを用いた加工は熱的影響により歪みや加工精度の低下と言った現象が見られる．これを解決する為には分子の振動モードが多数存在する赤外領域に発振する光源を用いたレーザーを適応する必要があるが，光源は限定的である．今回，波長可変赤外自由電子レーザーを用いて分子の光吸収と加工の相関について研究を行った．東京理科大学の赤外自由電子レーザー（FRL-TUS）は運転を終了した為，京都大学設置の装置（KU-FEL）を用いて実験を行った．試料は難加工性で紫外・可視に吸収を有さないポリテトラフルオロエチレン（PTFE;Poly tetra fuluoro ethylene，通称テフロン）やその異性体であるフッ素置換数が異なるPVDF（ポリビニル）歯科材料に多用されるレジンの主成分であるアクリル樹脂（PMMA）を選択した．前年度，照射実験により分子の赤外吸収と共鳴した光照射はレーザースポット周囲の溶融（HAZ：Heat Affected Zone）を抑制した加工が可能であることが判明した．今年度は加工に対する知見を詳細に検討すると共に，照射時に発生する気体の定性分析を行うことによりレーザー加工時の反応機構を追跡する実験も行った．その結果，PTFE分子のC-F結合の振動エネルギーと共鳴した波長の赤外光によるアブレーション反応において，吸収とは無関係のNd:YAG（532 nm）とは異なる組成の気体が発生していることが判明した．従って，分子の赤外吸収と共鳴する光は特異な反応経路を経由し，難加工性材料に対するレーザー加工法として適している可能性が示唆された．
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに，PTFE（Poly tetra fluoro ethylene ）に対して分子の吸収と共鳴するレーザー光を複数波長照射した．同時に，PTFEが吸収しないNd:YAGレーザー第二高調波（532nm）も比較対象として照射した．照射された試料を解析した結果，吸収を有する光は吸収の無い光に比較して，HAZ（Heat Affected Zone）の少ない加工が可能であることが判明した．更に，照射時に発生する気体を分析した結果，吸収を有する8.7ミクロンと532nmの光照射時には異なる組成の気体が発生していることが判明した．これらの結果により，吸収を有する光を用いたアブレーション反応は吸収を有さない光とは異なる反応である可能性が強く示唆された．しかしながら，当初の予定ではPTFEにおける他の波長，加えて他の材料においてもこの傾向が見られるかを検証するはずであったにも拘わらず，コロナ禍で出張実験の回数が限定されてしまっていた．更に，成果を学会発表する予定であったが，この学会も1年間の延期となってしまった．よって，僅かな遅延はあるものの，反応機構の解明まで漕ぎ付けたため，”おおむね順調に進展している”とした．しかしながらコロナ禍の影響による実験遅延もあり，成果発表や実験条件の精密化等，他の材料での同様の実験等，実施すべき事項が残存している為，補助期間を延長して論文投稿まで完遂したいと考えている．
|
| 今後の研究の推進方策 |
今年度までの2年間で，分子に共鳴する赤外光は共鳴しない光と比較し，加工面の損傷を抑制し，かつ反応経路も異なることが判明した．後半期間では減圧したガスセルに赤外光透過窓を取り付けて照射軸と赤外分光軸を両立させた装置を作成し，レーザー照射時に発生する気体の定性分析を行った．しかしながら，コロナ禍で京都大学への出張回数も限定され，照射時間（パルス数）等の要素を変化させて反応機構の詳細を検討したい．本年度までで予定していた実験は完了していないので，照射対象材料を複数選択し，同様の実験を行いたいと考えている．
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は2020年にコロナの影響で実施予定の実験が遅延し，その実験も実施した．また，ガスセル等の自作や実験系の設置において十分な時間を確保できなかった．コロナ禍の影響も前年度程では無かったが予定していた実験や学会発表を全て消化するには時間が不足していた．総合的には概ね順調であるが，データ纏め作業や再現性確認のための実験が実施できず，僅かな遅延が発生した為,また成果発表を予定していた学会が延期になったためこの分は次年度に繰り越して完全消化を予定している．本年度も京都大学の赤外自由電子レーザーを利用した実験を実施する予定であり，出張費・利用料による支出が見込まれる．また，学会発表と論文投稿でも支出を予定している．以上の計画で1年間，研究を継続する予定である．
|
