均質で膨大な量の細胞の確保は、今なお再生医療の発展における足かせとなっている。組織採取が容易な脂肪に起源を持つDFAT細胞は、骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)同様に増殖能に優れ、免疫抑制効果を持つ事から、新たな細胞ソースとして期待されている。しかし、再生医療に耐えうるだけの十分な細胞数を確保するには、他の細胞同様に長期間の細胞培養が必須となる。一般的に、細胞は長期間培養されると複製老化がおこり、細胞機能(増殖能、分化能)が衰える。また、近年老化した細胞は、炎症性物質等の細胞老化関連分泌形質(SASP)を分泌し、周囲組織に傷害を及ぼす事が明らかになっている。将来的なDFAT細胞の安全な利用に向け、老化DFAT細胞の詳細な特性評価、抗老化処理、あるいは老化細胞の効率的な除去方法の開発が求められていた。本研究では①細胞老化前後の脱分化脂肪細胞(DFAT細胞)の特性評価や、②骨再生を増強させる効果的な老化細胞の減少・除去方法の探索を通し、幹細胞治療の礎となる基礎知見の収集を目指す。具体的には、ラットDFAT細胞の複製老化時の形状、増殖能、細胞老化関連分泌形質(SASP)分泌、骨芽細胞分化挙動を精査する。更に、抗老化処理前後の細胞をラット顎裂モデルに埋入し骨形成能の比較検討を行い有効性を調査する。本年度は、昨年度に続き、DFATの採取、継代数を重ねた細胞の老化挙動の確認を詳細に行った。その結果、老化DFAT細胞では、一部の骨形成因子の発現が低下することが明らかとなった。また、細胞形体の扁平化や、核の肥大化や、複数の老化マーカーの発現増強が確認できた。研究期間全体としては、動物実験まで完遂することは出来なかったが、複製老化を施した老化DFAT細胞の特性に関し詳細な調査を行い知見を得た。
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